春が近づいてくる足音は、何かをカウントダウンしているみたいだ。その何 かに気付いているのに、私は今日も背中を向けて分からないふり。だけど思 い出ばかりが眩しかった。どこを向けばと見上げた空からは、冷たい雨粒が 瞼にそっと落ちてきた。

振り返って「同じ高校の子おるん?」と訊くと嬉しそうな可愛い笑顔が返っ てきた。入試の日におりちゃんが話し掛けてくれたことがとてもとても嬉し くてすごく安心したのを覚えているから、私もおりちゃんみたいになれたら と思った。さっそくキミカちゃんと大学からの帰り道、大笑いしながら歩い た。きっと周りからは高校のときからの友達なんて見えただろうなぁ。

苦手だった早起きも朝いちばんのごみ捨てのために何とかがんばってるよ。 料理だって毎日違うメニューに挑戦してるよ。まだまだ時間はかかるけど。 周りに誰も知っている人がいない中で、とっても可愛い友達もできたよ。 私、春からがんばれそうだよ。

ひとりになってバスに揺られていると、当たり前のようにパックンのことば かり考えている自分に気付いてしまう。きっと今ウォークマンから流れてい る曲は、これからもきっとパックンを思い出すための鍵のようなパスワード のような、そんな大切な曲になる。

いつか曇ったガラス窓に好きな人を想ってハートを描いたみたく、そっと右 手を伸ばしてみた。だけどハートを描くことはできなくて、ただ指先がだん だんと冷たくなっていくのを感じるだけだった。「運転手さん、私の気持ち 乗せていってくれた?」だなんて、もう一度私も素直になりたい。

選択した外国語が同じドイツ語だっただけで、何だかとっても嬉しい。うん と離れた場所でだけど、お互いがんばろうね。茶色いブックカバーの文庫本 を片手にアイスコーヒーを飲んで、ときどきくしゃっとなった優しい笑顔を 思い出して、春の足音に耳をすまそうと思ったよ。

3月30日(火) 雨

 

空の色もベランダのすぐ近くを流れる川の水面も、目に見えるものすべて優 しくきらきらしてた。目を閉じても光を感じる。春ってどうしてこんなにも 温かく優しい気持ちにさせてくれるんだろう。バスタオルをぱんと張りなが ら、好きな人と桜並木の下をのんびり歩きたいなぁなんて思ってみた。

入学式までにスーツの似合う顔になりたいなぁと言ったらちょっと時間足り ないかもねと笑われてしまった。そんな好きな人は自分でスーツが似合うと 言い張っていて(ただ老けているだけだと思うけど言わないでおいた)、いい なぁと笑ったけど少しだけ涙が出そうになった。

あれから髪を少しだけ明るくしたよ。少しふわふわさせてみたよ。自信はひ とつもないけど見てほしいと思うのは、私の中で少しだけ特別な人だから。 今日は花見日和やなぁと言っていたとき、同じこと思ったんだぁと嬉しくな った。少し違うのは、私は君と見れたらと思ったこと。

3月29日(月) 晴れ

 

光を受けて優しい黄色を部屋に届けてくれているカーテンに時間をかけてピ ントを合わせながら、鼻の頭まで被ってた掛け布団を両手でうんと払いのけ た。冷蔵庫の前でしゃがみ込んで何を作ろうかなぁなんてゆっくり考えなが ら、こののんびり感って好きだなぁと思った。

適当に切符を買って、電車に揺られた。こんなに人がたくさんいたら、あの ときみたく並んで座ることなんてできないんだろうなぁなんてぼうっと考え た。発車までの20分間のんびりお話することも、きっと。

これからは簡単に会ったり遊んだりできないねって言ってみた。そうかもし れないけど、それがまたいいかもしれないよって言ってくれた。また一緒に 遊べますように、なんて恥ずかしかったけど言ってみた。そしたら、すぐに 会えるよと言ってくれた。すぐに、がほんとにすぐに来たらいいのに。

ランチョンマットも、スプーンのセットも、ふたつずつ。「近いうちに行く かもしれないから、部屋きれいにしとけよ」なんて言うからではないけど、 それも理由のひとつだったりするのかな。

家から持ってきた赤いクッションにもたれながら、水色の日記帳を開いた。 しおりのように挿んであるプリクラを見て、ふぅと大きく幸せなため息。引 越し前日の夜から、何だか時間が止まったままみたいだ。日記を読みながら これじゃぁラブレターみたいだなんて自分で恥ずかしくなりながら、もう一 度しおりを挿むようにプリクラを裏向きにして日記を閉じた。

3月25日(木) くもり

 

「あいつ、あと少しで着くって!」ってカズくんが笑ってて、私も笑った。 今日こそ会えるんだって嬉しくなった。しばらくするとカズくんが「おまえ オッサンになったなぁ」って笑い出して、振り返るとすっかり髪が茶色くな ったパックンがいた。似合ってると思ったけど何だか言えなくて、オッサン やぁって私も笑った。

ボウリングの名前登録をカズくんが書いてくれていたので「パックンのとこ ろ、ほんとに"パックン"にしてみよ?」って言ったらほんとにそう登録され てしまって、みんなで大笑いした。3年ぶりだとか言っていたのにふたりと も上手過ぎてずっと拍手してた気がする。私がガターをする度に笑われたけ ど、ストライクを出したときは一緒になって喜んでくれた。嬉しかった!

結局2ゲームともふたりに負けてしまったので、ジュースをおごらされた。 このあとどうする?って訊かれて「みんなでプリクラ撮りたい!」って言っ たけど「負けたやつがでしゃばるなぁ」って相手にされなかった。そのあと 太鼓の達人だとかカーレースのゲームをそれぞれ対戦したけど全部負けてし まった。車種選択の方法が分からなくて困ってたとき、パックンが私のを勝 手に大型トラックにしたからだ、絶対!

「俺、姉貴と飯食いにいくけんあとはふたりでどうぞ」って突然カズくんが にかって笑った。私は「なに言い出すんよ!」と声に出さずに口を動かして 怒った。パックンは「俺も連れてけっておい!」ってカズくんを叩きまくっ てた。どうしようどうしようって思った。カズくんがもう一度にかって私に 笑ってくれた。ありがとうって、思った。

カズくんにバイバイを言われてバイバイを言ったあと、パックンに「このあ と帰るん?」って訊かれた。何だか照れくさいから「うん」って言っちゃお うかと思ったのだけど、顔が赤くなるのが気付かれないように両手で何とな く頬と口元を隠しながら「いっしょにご飯でも食べん?おなかすいた!」っ て言ってみた。まだ、一緒にいたいなぁって思ったから。

にかって笑いながら、「おれこの辺り詳しくないけん、お店教えてよ」って 言ってくれた。嬉しすぎて、照れくさすぎた。私は歩きだったから、それに 合わせて自転車を押して歩いてくれた。歩いてきてよかったって、思った。

レストランの横に大きなペットショップがあったので、お互い犬猫好きだか ら入ってみることにした。「おまえ可愛いなぁ」ってどの子犬や子猫にも言 っていて、何だか少しだけワンちゃんたちがうらやましかった。ケースを覗 き込むときにときどき肩が触れて、その度に恥ずかしくて目を閉じてしまっ た。きっとワンちゃんたちには、私の気持ちばれてるんだろうなぁなんて。

レストランで向かい合わせに座って、あたりまえに目の前にパックンがいる ことにドキドキした。メニューを見ながら「おれ、期間限定とか書かれてた ら絶対頼んじゃうや」って笑ってた。わかるかもって私も笑って、ふたりで 同じ期間限定のを頼んだ。嬉しいなぁと思った。

友達にメールを打っているのかなぁと思っていたらシャッター音がして、パ ックンが大笑いしだした。どうやら私の間抜け顔が撮れたみたいで、もう何 だか怒りたいのに恥ずかしすぎてわぁわぁ騒ぐことしかできなかった。それ からも私の話を聞くふりをして携帯のレンズをわざと向けるから、バッグで 顔を隠しながら怒った。(仕返しにパックンの顔も撮ってしまった。うわ!)

食べ終わるの明日になりそうや、なんて言いながら期間限定の大きなハンバ ーグを食べた。「一人暮らししたらみるみる痩せそうやもんな、料理できん けん。たくさん食べとけよ!」とか言われて、反論できないのがくやしかっ た。なかなか食べ終わらないでいると、パックンが私の分も食べてくれた。

レストランを出たあと、どうする?って訊かれたから、もう一度「プリクラ 撮りたい!」って言った。パックンは「じゃぁさっきのカーレースの勝負も っかいしよか。俺10秒遅れてスタートしてやるけん、それにお前が勝ったら な?」って言いながら自転車のハンドルをさっきのゲームセンターに向けて くれた。

さっきはカズくんもいたけど、今度はふたりきりだったから車のに乗るのが すごくすごく恥ずかしかった。10秒のハンデもあんまり意味がなくて、また 負けてしまった。もう帰ろうって言われちゃうなぁって思ってたら「お前、 どれだったら俺に勝てるんやろな?」って笑いながら他のにも挑戦させてく れた。ほとんど負けたけど、楽しいなぁって思った。

パックンは背が高すぎてカメラに映りきれていなくていっぱい笑った。何枚 目かのとき、背の高さを合わせてくれたのか顔がふわって近くなってびっく りした。そのあと肩にぽんって手を置かれて、うわぁって思った。私ぜった い固まった顔してるだろうなぁと思ったら、その通りだった。

プリクラも撮れていっぱい幸せだなぁと思ったから、何度も嬉しいって言っ た。何でも素直に言えるなんて、初めてかもしれないと思った。10時を過ぎ ていたからほとんどのお店は閉まっていた。だけど街灯が規則正しく大通り の歩道を明るく照らしていて、何だかとても静かできれいだった。

自転車をゆっくり押してくれて、その横をゆっくり歩いた。この人の横をゆ っくり歩くこと、本当に本当に好きだなぁと思った。明日の今ごろはこの町 にいないだなんて何だか信じられないや。私の大好きなこの町を、最後の最 後にこうして大好きな人と歩けたこと、本当に本当に幸せだと思った。

マンションの下に着いたとき、小さな声で「また神戸とか遊びに来てね」っ て言った。そしたら「ほんとに行くし。すぐ会えるよ」って言ってくれた。 笑ってたから冗談かもしれないけど、それでも嬉しかった。バイバイって手 を振って、少しだけ立ち止まって、振り返ってパックンの後姿を見た。また 隣を歩けますようにって、強く強く思った。

3月19日(金) 晴れ  明日は引越しだ!

 

待ち合わせの時間を誤って伝えていたみたいで、パックンはいつまで経って も前みたく目の前を通り過ぎてくれなかった。カズくんまでも一時間も遅刻 してきて、英会話教室の先生とぷんすか。でも、笑った。カズくんと会うの はあの花火大会以来だ。

先生は外食の約束があるみたいですぐにお別れすることになった。カズくん とさっき通ったばかりの道を引き返しながら、夏からのことを話した。映画 を何回か一緒に見に行ったこと、クリスマスのこと、バレンタインのこと。 「ほんま好きなんやなぁ、会いたいじゃろ?今から会いに行くか?」って言 われて、会いたい会いたいっていっぱい笑った。

近くのコンビニの駐車場で、カズくんがパックンに電話をかけることに。カ ズくんが笑いながら「俺の携帯電池もうなくなるけん、さーちゃんがあいつ にかけてよ」って私の携帯を指差した。もしかしてと思ってカズくんの携帯 を覗き込んだら、電池はいっぱい残ってた。もう!

カズくんがパックンと電話をしている間、カズくんの携帯に耳を近づけた。 パックンの声が聞こえるかなって思ったけど、あんまり聞こえなかった。今 日はもう会えないことと、明日なら時間があること。直接ではなかったけど 知ることができた。

ほんの数分前までは会いたい会いたいって笑っていたのに、会えるかもしれ なくなると途端に不安になった。両手をばつの形に交差させてカズくんに見 せると携帯を片手で押さえながら「会いたいんだろ?」って怒られた。電話 が終わったあとしばらく話していたら「さっきまでの勢いはどこ行ったんや ほんまに、悩み過ぎ!」と、もう一度怒られてしまった。

家に帰ったあとすぐにカズくんから電話があった。「さーちゃんも誘ったこ と言うたらおっけぃしてくれたで。不安になることないって!あとカメラ持 って行きぃね?ツーショットで撮ってあげるから」って笑ってて、私も笑っ た。いっぱいありがとうって言った。

*

「先生に大人っぽくなったねって言われたよ」と言ったら「お世辞ちゃうん かな?」ってパックンに笑われた。・・・もう!

3月18日(木) くもり

 

部屋の隅っこに積みあがってく段ボールの横で、小さな薄いノートを開いて みた。うめさんに書きかけたままの手紙の書き出しだとか、イギリスでシャ ーロットと絵だけで気持ちを伝え合ったときのへんてこな猫の顔だとかをみ つけた。ページをめくっていくと、最後に「大好きなパックンと冬のまつり いったよ」というコメントと去年のクリスマスの日付があった。

いつも忘れたころにどこからかみつかるノートだから、何を書いたかもその 度にゆっくりページを辿らないと思い出すことができない。だからきっと今 日綴った気持ちも、いつか忘れたころにページをめくるわたしに、ゆっくり とゆっくりと届くんだろう。

手を伸ばせば伸ばすだけ、春を感じることができた。きっと今日も手をうん と伸ばせば誰よりも春を感じることができたと思うけど、あのときみたく道 の真ん中で背伸びをすることはできなかった。春の匂いを胸いっぱい吸い込 んでみて、もう鼻の頭がツンとしないことを少し寂しく思いながらも、やっ ぱり大好きだと思った。

明日の夕方、好きな人に会います。

3月17日(水) 晴れ

 

細い階段を上り、小さなドアをゆっくりと開く。橙色の光がとてもとても温 かい。端っこの席を選んで、手書きのメニューの中からおすすめと書かれた ランチを選んだ。いつもだったら私もあゆみちゃんと同じみたくドリンクは オレンジジュースを選ぶのだけど、アイスコーヒーで、と言ってみた。

お互いに一番だと言い合える友達がいること、とてもとても幸せだ。そして それを伝えることができることも。「ごっちがこの前、80歳の誕生日のとき もお祝いメールとか送り合いっこしようねって言ってたやん。そのこと好き なひとに言ったら笑われた!」なんて、話すことは好きな人のことばかりだ けど。

ふうとため息をついたりだとか、ストローで何となく氷を鳴らしてみたりだ とか。そんな時間までも心地良くて、とてもとてもリラックスできる。好き な人に少しでも近づきたいよねなんて話してたとき、バッグから文庫本を出 したらあゆみちゃんが大笑いしてた。コーヒーを頼んだ時点で、私は好きな 人にすっかり影響されてるや。

***

春休み中にまた神戸行くかもしれないからそのときはよろしくなって、どう してそんなに嬉しいこと言ってくれるんだろう。いつもの冗談かもしれない けど、またパックンの斜め後ろを着いてあの街を歩けるのかなぁって、小説 を読みながら情景を心に描くみたく、そっと思い浮かべてみた。

3月13日(土) 晴れ

 

横断歩道で偶然会ったさとピーととんぴがおめでとうって叫んでくれたりだ とか、入学式で着るスーツを買ったお店の店員さんたちに拍手されたりだと か、こうして大好きなみんなが大好きなお菓子を紙袋いっぱいにしてプレゼ ントしてくれたりだとか。やっぱり、誕生日って嬉しいなぁ。

一週間ぶりに会ったみんなは少しだけ髪が茶色くなってた(私もほんの少しだ け)。いつもの4人で一緒に中華のバイキング。いつもと違うのは制服ではな いということだけで、ただただ心地良くてしょうがなかった。春からみんな が傍にいないだなんて、やっぱりやっぱり信じられないや。

「みんなでどこ行きよるんな?」なんて声が聞こえて振り返ると、あずみち ゃんとまゆちゃんがいた。ボーリングの帰りだよって答えたらあずみちゃん は「スコア誰が悪かったぁ?こいつやろ?ごっちー!」って私を指差してき てみんなで笑った。(私はこれでも2位だったのに!)

たくさんのありがとうを伝えてみんなにバイバイと手を振ったあと、電車を 待つあいだ本屋にいることにした。エスカレーターで8階まで上がる途中ガ ラス窓の向こうに、花火の日に自転車の後ろから降りてバイバイした横断歩 道だとか、マフラーぐるぐる捲いて「あったかい」って笑ってくれたお店の 駐車場が見えた。

どんどんと小さくなっていく横断歩道や駐車場を見たくなくて、窓に背を向 けた。そういえばこうやって一緒にエスカレーターに乗ったなぁだとか、本 屋にいるときも小説のコーナーにパックンがいるような気がしてしょうがな かった。

家が離れているから、会うときはいつも真ん中のこの街だった。あと10日で 離れるだなんてやっぱり信じられない。伝えなくてもいいやと思っていたけ ど、やっぱり伝えたいことがあるよ。今の距離以上に離れてしまう前に、電 話やメールなんかじゃなくて直接伝えさせてね。

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パックンからのおめでとうはやっぱり夜遅くて、でも日付を越えてお話でき た。ありがとう。嬉しかったよ。

3月9日(火) 晴れ

 

近くの大通りへ買い物に自転車で行こうと思っていたのだけど、窓の外に大 粒の雪が見えたので自転車の鍵を玄関のビンの中に入れて、靴を履いた。き っと空ばかり見てしまうから自転車に乗ってたら転んでしまいそうだし。そ れに、もうすぐ離れる私の育った町をゆっくり歩きたかったし。

バイト先の人が「この前さやかちゃんのお母さんとおばあさんが食べに来て たよ。さやかちゃんと似てるなぁって思った!」って笑ってた。少し前まで ならそうですか?とあんまり嬉しくない声で言っていたかもしれないけど、 今日は何だかとっても嬉しく思った。

レミオロメンが「3月9日」というタイトルのシングルを出すみたいで、何だ かとってもとっても嬉しい。ただの誕生日なだけなのに、特別になったみた いな気持ちになってしまう。「そいつらたちにも何かの記念日なんかなぁ」 なんて言いながら、「おれも覚えとくわ!」ってパックンが言ってくれた。 やっぱり、とってもとっても嬉しい。

きっと1年前だったら、雪が降ってたら歩いてなんて買い物へ行かなかっ た。冬が好きになったのも、歩くことが大好きになったのも、きっと私には もったいないような思い出のせいだ。ピンクや白の優しい色合いをした春物 の服を見るのはとてもわくわくしたけど、久しぶりにぐるぐる捲いたマフラ ーが何だか暖かくてしょうがなかった。

3月6日(土) くもり、雪

 

できあがった写真を初めて見るときも大好きだけど、ひとつひとつアルバム に綴じながらひとことずつコメントを書いていくときも同じくらい大好き。 そのまま眠ってしまったみたいで、朝起きると枕元に開いたままのアルバム があり、ペンの染みが左手の甲に小さくあった。

今日はパックンの高校の卒業式。おめでとう、と私からメールを送ってみ た。どうやら飲み会中みたいだから「邪魔してごめん、ゆっくり楽しんで」 って言ったのだけど、ありがとう。もう終わるからまたメールするよって言 ってくれた。

もし同じ高校だったら一緒に飲み会だって当たり前に行けたかもしれないな ぁなんて、ぐるぐる小さくてくだらないことを考えた。だけど違う高校だっ たから、3年振りに会えて嬉しくて嬉しくてしょうがなくなったんだ。また メールするよって言ってくれたことすごく嬉しいのに、変なこと考えてしま った。

新しい家に引っ越すまで、あと15日。かわいいデザインの掃除機だとか新し い家の周辺地図だとかにワクワクしながら、もうすぐこの町ともお別れなん だなぁと思った。20分置きにしか電車は来ないけど、砂利道だっていっぱい だけど、大好きな町。

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またメールするって言ってたけど、たぶんあの人寝ちゃった気がする…!

3月4日(木) くもり、雪

 


みんなでブラウスの第一ボタンを留めあいっこしながら、全然実感ないねっ て笑った。すぐに式が始まるのにまだ廊下にクラスのみんなが揃っていなく て、その人を呼びにまたひとりふたり教室に戻って、と最後の最後までまと まりのないクラスだったけど、好きだなぁと思った。

みんな目は真っ赤なのにとびきりの笑顔してた。普段は憎たらしいことばか り言っているケンちゃん(担任)は、今日は保護者の前だからって声だとかし ゃべり方はもちろん話す内容まで優しくなっていて、それにみんなで大笑い した。最後にいつものケンちゃん見たかったのに。

クラスの文集で「歯磨き粉が苺味っぽい人」で一位になってたから、と上野 ちゃんが真ん中に大きく「いちゴッチ」を書いてくれていっぱい笑った。鳩 もっち(1年のときの担任)にメッセージを頼んだときに「私の書くとこない じゃない。愛されてるのね、分かるなぁ」と言われた。「ごっちちゃんのい ない学校って信じられないわよ」と言いながら返してくれたアルバムには他 の寄せ書きを避けるように小さく「○高に来てくれて、ありがとう」と鳩も っちからのメッセージが書かれてた。何だか嬉しすぎた。

バイバイっていつもと同じようにみんなと別れたから、長い休みが明けたら またいつもと同じようにみんなとおはようって笑うんだろうなぁって、そん な気持ちになった。もう制服を着ていつもの教室でいつものみんなで会える ことはないんだって分かってるけど、まだ信じられないや。

お弁当の時間、遠くに好きな人を探した、ぽかぽかしたベランダ。
好きな人が後ろに並んだからイチゴオレを選んでみた、食堂の自販機。
風を熱った頬に受けながら好きな人がいるグラウンドを見渡した、屋上。
携帯を右ポケットに入れて大きな背中を追いかけた、3階の渡り廊下。

階段をひとつ上るだけで、渡り廊下の風を頬に感じるだけで、教室のドアを 少し開けるだけで、小さな小さな恋の思い出がふわっと心の中でだけ再生さ れる。ときにはズキズキと痛んだ思い出なのに、とてもとても心地が良い。

この場所で小さな小さな恋をしてたこと、これからもずっとずっと覚えてた い。ずっとずっと忘れたくないことを、日記に残してこれてよかった。本当 は残しておくこととても恥ずかしいけど、恥ずかしい気持ちを越えて恋して た思い出をとても大切に思うから。

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新しい住所を書いたカードを見たゆきちゃんが「ごっち神戸?近い!」って 言っててびっくりした。ゆきちゃんも春から兵庫に住むみたい。引越しが落 ち着いたら一緒に買い物行ったり泊まりっこしようねって約束した。友達は ほとんど関西方面に進学するから、またみんなでいつでも会えるね。やっぱ りさよならなんかじゃなくて、改めて、これからもよろしくね。

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英会話教室に通ってたみんなで先生に会いに行こうって計画があるみたい。 ふたりきりじゃないけど、またパックンに会えるかもしれなくて。春が来る までにいっぱいいっぱい会いたいな。

3月2日(火) くもり

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