午前1時過ぎにバイト先の先輩たちとガストまでのんびり歩いた。あまりに もバイトが忙しかったから、そのお疲れ様会も兼ねてみんなで軽くご飯食べ に行こうということで。初めて付き合った人のことや、初恋のこと。やっぱ り盛り上がるのは恋愛話だねなんて笑いながら、私は今こうしてアイスコー ヒーを飲んでいるわけなんかを話した。

いつのまにか窓の外はぼんやりと明るくなっていて、お店の中だからはっき りとわかるはずはないのに、小鳥の囀る声や車の走る音なんかが聞こえた気 がした。田辺さんが「いけやんの思い出の味!」なんて笑いながら、最後に ドリンクバーでアイスコーヒーを選んでた。みんなでくすくす笑った。

家に帰ってすぐにばふっと枕に顔を埋めた。きっと一人暮らしじゃなかった らお父さんに怒られてただろうなぁなんてぼんやり思いながら、1時間後に 目覚ましを合わせた。このあとすぐに部活だということ、忘れてたわけじゃ なかったのだけど無茶しすぎたかなぁと思った。

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ふと、目で追っていたことに気づいたとき。とても惹かれているんだなぁと 思う。みんなに優しすぎることだとか、嫌いになる理由なんてそんなところ しかなくて、だけどそれはとてもとても好きになる理由でもあって。すごく すごく温かいひとなんだと思う。

部活が終わったあと、部室棟のソファで部員さんとお話したり、マネージャ ーのみんなでお昼寝したり。くみちゃんたちが筋トレ室にいる部員さんたち のところへ行ったとき一緒に行かなかったのは、中に池ちゃんがいたから。 そのあと筋トレ室のドアを何度も見ることになるのだけど。

ほんの少しだけ一緒に行かなかったことを後悔してたから、しばらくしてソ ファのところでみんなで話していたときに池ちゃんが来てくれたことがとて も嬉しかった。直接話していたわけではないけど、だろ?っていつもの口癖 で話しかけてくれたり(みんなにしていたけど)、見ているこっちまで笑顔に なってしまうくらい下がった目尻だとか、何だかほんとに温かくなる。

ぷしゅうとドアが閉まる直前に、池ちゃんがすごい勢いでバスに乗り込んで きた。危なかったぁと笑っていたから、私も笑った。それまで座っていた真 ん中の席を立って、ふたりで一番後ろの席に座った。のんびりとした口調が とてもとても心地よくて、今わたしは池ちゃんに負けないくらいの笑顔にな っているんだろうなぁと思った。

6月27日(日) くもり ときどき 雨

 

一目惚れしたシンプルなデザインの雨傘はまだ一度も開いたことがなくて、 だけどこの傘は晴れの日でもとても映えることに、左手首に傘をかけたとき に気がついた。早く使いたいような、そうでないような。台風が過ぎた空は ぴかぴかという響きがとても似合うほど眩しくて、今日もやっぱりお気に入 りの傘は閉じたままだ。

一緒にラーメン食べに行こうかだとか、飲みに行こうだとか。ひとつひとつ が冗談だとわかっているのに、だけどひとことひとことに少しだけどきりと してしまう。何か作ってよ、と言われて「じゃぁ親子丼作ってあげる」なん て私も冗談ぽく返事をしたのだけど、きっとほんの少しどきりとしていたこ となんてあのひとのことだからすっかり気づいているんだろうなぁ。

背をぐっと屈めて顔をぐっと近づけて、目を覗き込んで「泣いてないか?」 なんて聞くのは反則だ。うまく目を合わすことができなくて、口元の緩みも うまく隠すことができなかったから、思いきり背中を向けてしまった。心配 してくれること、すごく嬉しいのに、何だかうまく伝えられないでいる。

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千紗ちゃんと大学近くのスーパーでのんびりお買い物。お互い一人暮らしを しているから、野菜の上手な保管方法なんかを教え合いっこしながらふたり で買い物籠をぶらさげた。いつもはあまり買わない鶏肉を籠に入れて、この 前みりんは買ったよなぁなんて思い出しながら、私って本当に単純だと思っ た。

じゃぁ楽しみにしてます、なんて冗談ぽくだけどそう言ってくれたから、今 日の夕飯は久しぶりに親子丼を作ってみようかなぁなんて思ったよ。いつか とびきりおいしいのを作れるようになったら、いつも支えてくれてありがと うの気持ちを込めてごちそうさせてね。なんて言ったらきっとあのひとはぶ はって大笑いするだろうけど。

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6月20日、大好きで大切で会いたくてしょうがなかったまーやと倉敷で会い ました。はじめましてなのにちっともそうでないようで、でもやっぱりほん の少し緊張したよ。改札にいることを知らなかったのに、携帯片手にきょろ きょろとしているまーやを見て絶対この子だぁなんて思ったよ。

路地裏みたいな小道を抜けて、となりのトトロに出てくるお父さんが作っち ゃいそうな木でできた滑り台にふたり目を輝かせて。いちごのかき氷を食べ ながらパックンとの思い出をお話したとき、私はやっぱりパックンのことが 大好きなんだなぁなんて気づいたよ。

まだふわふわとしているこの気持ちをやっぱりまーやに伝えたいと思うし、 ずっとこれからも聞いてほしいなぁと思う。学校も住んでいる場所もぜんぜ ん違うのに、こうして友達になれたこと。粒々の汗をかいたグラスを前に、 向かい合わせに笑い合えたこと。きっととてもとても素敵な偶然だと思う。

まーやは思ってた通りにとっても可愛くて、今まで以上に大好きになった よ。これからもずっとずっとよろしくね。日曜は会ってくれて、本当にあり がとう。(今度はもみじ饅頭、ちゃんと食べるけんね!)

6月22日(火) 晴れ

 

ずっとずっとコンプレックスだった少し幼すぎる声のことをアルバイト先の 店長に何度も笑い話にされて、今までいつも笑って平気なふりをしていたけ ど涙になって溢れ出てきてしまった。もう帰れと言われて家でぐすぐす泣い ていたら同じホール担当の理恵さんと西部くんが訪ねて来てくれた。玄関越 しに電話で元気を届けてくれて、ふはっと思わず笑ってしまった。小さな小 さな優しさがとてもとても嬉しくて、温かい。

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すっかり日は暮れてしまって、だけど芝生は太陽の光をいっぱい吸収させて 温かい香りを残してた。どこに座ろうかなんてノッチは先に走って色んな場 所を探してくれた。それにくすくす笑いながら、グラウンドが見渡せるベン チを指差して「ここでいっか」って座ってみた。

みんなに優しいのは分かっているのに、池ちゃんのその優しさに惹かれてし まったこと、だけどまだ気持ちはふらふらしていて、こうして空を見てたら いつのまにかパックンのことを思い出していること。心に浮かんだことを思 いついたまま言葉にするのはとても気持ちが良くて、だけどどうしても上手 く言葉にならない気持ちもあって、それはきっと冬にパックンとお話してい たときに伝えたかったものなのかなぁと思った。私、少しも成長できてない や。

夏の花火大会やクリスマスのイルミネーション、最後に会った日。携帯で撮 った写真を一枚いちまいノッチに見せながら、何だか少しだけ涙が出そうに なった。ノッチも元カノさんの写真を見せてくれて「ぜったい削除とかでき ないよね」ってふたりで笑った。ノッチは私のことを妹扱いするけど、私は ノッチのこと弟みたく思っちゃうよ。こんなこと言ったらきっと怒られちゃ うけど。

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レポートを印刷し終えて、ふうと一息。真っ暗な道に、私のサンダルの音だ けをパタパタ響かせた。バスの中で文庫本を読むふりをしながら、窓の外へ 向かって手を振る女の子の横顔を見た。バス停にはさっきまでその女の子と お話していた男の子がいた。ふたりは今どんな気持ちなのかななんて図々し くも考えてみたりしながら、もう一度ページの右上に目を落とした。

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先週の日曜に、幼馴染のまみちゃんと8年ぶりに会いました。最後にバイバ イをしたのはお互いが小学生だったから、面影はあるのに全く別のひとみた いで不思議な気持ち。同じマンションにマー君っていたよねだとか、マンシ ョン前のヤマザキというお店はコンビニになったことなんかを話しながら、 時は繋がっていて、だけどきちんと流れていることを実感した。

「さーやんと明日とか普通に学校でおはようって言ってそう!ほんとに8年 離れてたんかなぁ」なんてまみちゃんが笑ってて、私も大きく頷いた。また ねって大きく手を振って、電車が出発してからも窓越しに変な顔したりにか ぁと笑ったり。

小学3年生の夏休み、もうまみちゃんと会えなくなっちゃうんだって毎晩泣 いてた。お互い大学生になっていたけど、またこうして再会できた。お互い が会いたいという気持ちがあれば、絶対にまた会えるはず。私がパックンの 分まで会いたいと強く思ったらまた再会できるかなぁなんて、やっぱりまだ 考えてしまう。

6月14日(月) 晴れ

 

玄関のドアを少し開いただけでふわぁと優しい匂いが私を包んだ。実家を離 れて暮らすようになって、好きになったもののひとつ。当たり前に住んでい たときには慣れすぎて気づいていなかった、家の匂い。ほんの少しだけ背が 伸びた気がする妹に、ただいまの代わりにでこぴんをした。

古びた線路を並んで歩いたりだとか、放課後の食堂でなかなか進展しない恋 にふたりでため息をついたりだとか。ふわぁと包んだ優しい匂いと同じくら い当たり前にずっと隣にいたあゆみちゃんの、とてもとても大切にしていた 恋が実っていた。ただでさえ嬉しくてしょうがなかったのに、誰よりも私に 報告したかったと言ってくれて涙が止まらなくなってしまった。

私もいつかパックンとのことをこんな風にあゆみちゃんに報告できたらいい なぁなんてずっとずっと思っていたし、本当は今でもほんの少しだけ思って る。久しぶりに歩いた大通りはあのときよりも日差しが強くなっていて、そ う感じるのは今がお昼だということもあったかもしれないけど、きっともう 春は過ぎてしまったから。

ハンドタオルと単語帳を片手に、Coccoのアルバムをずっとずっと繰り返し 聴きながら開館前の図書館に並んだ。そんな1日が続くばかりの日々だった けど、それでも何かに満たされた気持ちでいた去年の夏の始まり。これから 素敵な毎日が待ってるよって、今、私が伝えたかったことが本当に伝わって いたのかもしれない。

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一晩くらいゆっくりしていったらとお母さんが言ってくれたけど、明日は1限 から授業があるので午前0時のフェリーで神戸に戻ることにした。出航ま での間、見送りに来てくれたお父さんと並んでソファに腰掛けた。いつもと 変わらず優しく笑ってくれるお父さんの目尻の皺が、ほんの少しだけ深くな っている気がした。

住んでいる場所や傍にいるひとは変わっても、きっと大切だとか大好きだと 思う気持ちは変わらないもの。きっと私はこれからもずっとパックンのこと を好きだけど、それは当たり前のことなのかなぁと思った。私の目尻にうん と深い皺ができたときも、きっときっと大切に思っている気がする。

6月1日(火) 晴れ

 

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