11月15日〜11月26日分のログ

 

部活が終わったことを伝えると、学校まで迎えに行くよと言ってくれた。マ ネのみんながよかったねって言ってくれて、うんって笑った。そわそわと誰 かを待つときはいつも歯痒い気持ちになるのだけど、それが気になる人なら 尚更で。ブーツをコトンと鳴らして、風邪気味の鼻をすすって、はあ、と息 を吐いた。一台の車が停まって、中で手を振るあのひとがいた。ぱたぱたと 近づいて、ありがとうと言った。お疲れって言ってくれて、うんって笑って 助手席に乗った。バイト先の人にはよく車の助手席に乗せてもらうけど、や っぱり気になる人の隣は何だかどきどきした。

お昼と呼ぶにはすっかり時計はまわっていたけど、部活で何も食べてなかっ たからファミレスに寄ってもらうことに。彼は家でカレー食べたとか言って たのに、私よりもうんとたくさん食べてた。煙草の煙も、あんなに苦手だっ たのにいつのまにかあまり気にならなくなってた。バイト先が魚売り場だか ら家帰ってすぐに煙草吸うと手が魚臭いねん、なんて変なこと言ってて大笑 いした。春からのクールなイメージはがらがらと音を立てて崩れてるけど、 春には気づけなかった優しいところがまた何かを築き始めてる。

家からはとっても近いのに、交通の便が悪くてなかなか行けなかったデパー トに連れて行ってくれた。立体駐車場に上るとき、わざとジェットコースタ ーみたいにスピードを出してたから、ずっと叫びながら目瞑ってた。お父さ んの誕生日プレゼントを選んだり、いかつい彼にぴったりのサングラスを選 んだり、(かけて!と頼んでかけてもらったらほんとに恐くなってどうしよ うかと思った。)子ども服で可愛いのがあって可愛いを連呼してたら、さす がに俺あれは着れんわ、なんて言ってて大笑いしたり。

やっぱりさり気なくコーヒーだとか買ってくれてて、あのときの嬉しさが薄 れてしまうほどそれが自然になっていて、本当にどうやったらお礼ができる んだろう、なんて考えてしまう。ほんと優しすぎるよ、というとそうかなぁ と言ってた。ボウリングで上手いの隠してたのは優しくないけど!もう、と 怒ったのは上手だなぁってもっと惹かれてしまうのがくやしかったから。

車でかけてる彼の好きだという音楽に合わせてふたりで歌ってたら、やっぱ カラオケ行きたいねってことになった。バイトの時間が迫ってたからほんの 一時間くらいだったのだけど。前は向かい合わせだったけど、今日は隣同士 に座った。少し(というか、かなり)照れたけど、でも何だか自然だった。 ホットミルクティーとホットレモンティーを注文して、仲良しだぁと思った。

そのあと家まで送ってくれてすぐにバイトに向かったのだけど、タイムカー ドを押すときに笑顔だったのはきっと今日が初めてだ。にこにこしてたら、 アンケートに「いけださんの笑顔がよかったです」、「店員さんの愛想が良 くてまた来ようと思いました」なんて書かれてた。店長にも褒められたし、 やっぱり誰かを好きになるってすごいなぁ、と思った。

*

部活が終わってからバイトへ行くまでのほんの少しの時間だけだったけど、 いろんなところ連れて行ってくれてありがとう。明日一緒の授業があるのは 何だか少し恥ずかしい気もするけど、でもきっと会ったらまた笑うんだろう なぁ。白い息も温かいコーヒーも、東京にいる大好きな人だけを思い出すも のでなくなったことは寂しいけど、でも明日がとっても楽しみでいる自分に うそはつけないや。私、坂井くんが好きだよ。

11月14日(日) 曇り

 

図書館前で久美ちゃんを待っていると、食堂のほうからいつもの黒いジャン パーを来たあの人が来た。スーパーでちゃっかり籠を持った私に気づいたと きみたく、私に気づくと一度どこか遠くを見て、そのあとゆっくりと目を見 てにいと笑ってくれた。おはよう、って笑った。会いたいと思う人に会える ことは、やっぱりすごく幸せなことだと思った。

どこか座ろうかと言ってくれて、久美ちゃんを待ってることを言ったら「あ いつもおるんかい!」って笑ってた。喫煙所のベンチに座ろうとしたときに 久美ちゃんが見えたので呼んだら、声は出さずに「あんた何しよん!」って 叫ばれてしまった。大笑いしながら、偶然会ったんやってって言った。昨日 の目玉焼きのことだとかを話しながら、ほんとずっと笑ってた気がする。

何の曲が好きだって話をしていたとき、私が好きだと言ってたアーティスト を一番に彼が挙げてくれていて、嬉しすぎて何度も頷いた。俺らカラオケ行 って来てん、と言ってくれて、だけど久美ちゃんは知らないふりをしてくれ て「そうだったん?」と驚いて冷やかしてくれた。昨日のお泊りのときは久 美ちゃんとずっとそのこと話してたのだけれど。久美ちゃんは本当何だかん だ言っていつも気遣ってくれる。ありがとう。

「さぶなってきた。何か飲むか?」と自販機の前に立ちながら私に聞いてく れて、うわぁ、と思った。ほんとに?と思わず声が高くなってしまって、だ けど嬉しすぎてすぐに言葉が出ないでいた。「コーヒーかなぁ?」というと 「カフェオレ、な」なんて笑ってた。投げるで!と前と同じみたく投げるふ りをされて、慌てて取りに行こうとしたらふははって笑いながら手渡しして くれた。あのときみたいで、でもあのときよりもドキドキしてしまった。

「おまえは?」と聞かれて久美ちゃんは「あたしはいいよ」って言ってた。 「いる言うてもお前だけには買わんけどなぁ」なんて喧嘩してたけど、あっ たかい缶コーヒーを頬に当てながら、何だかそんなふたりを見るのも好きだ なぁと思った。私に買ってくれたのと同じカフェオレを飲みながら、次の授 業出たくねえなんてごろごろ転がってた。たくさん笑った。

どこかですれ違うたび手を振り合ったり挨拶をするようになったこと。こう して休み時間にどこかでお話をするようになったこと。たばこの煙が以前よ りも嫌いじゃなくなったこと。だんだんと惹かれていくのがわかる。すごく 会いたいと思うし、笑ってくれるのがすごくすごく嬉しい。ここではまだ三 人称での彼、という表現だけど、いつかちゃんと意味のあるものになります ように。

*

一緒の講義があるときは必ずあゆちんと一緒に座るのだけど、二人でいると 自分がどんどん成長してくのがわかる。ときどきおしゃべりの時間になるけ ど。二人とも別々だけど夢があって、それに向かってまだまだ小さいけど努 力してて。私の誕生日にはあゆちんが私のために香りを選んでアロマの何か をプレゼントしてくれるみたい。アロマの検定受けるの応援してるよ。私も もうすぐ締め切りの論文課題があるから、最後の追い込みがんばろう。

同じ高校出身のひとが誰もいない中で、おまけに一人暮らしで。どうなるか と思ったけど、自分が必要としているひととは必ず会うことができるのだと 思った。部活のマネのみんなも、あゆちんも、きっとこれからずっと離れる ことないだろうなって感じる。大切な友達がいて、好きな人がいて、色んな 出来事を乗り越えて。一緒に努力できるひとがいること、何だかとても幸せ だ。

*

久しぶりの部活が日曜にあるのだけど、そのあと私がバイトに行くまでの間 に気になる彼がケーキでも買って行ってやるよ、と言ってくれた。何だか会 いに来てくれるみたい。嬉しすぎて、何だかさっきから意味もなく飛び跳ね てみたり。こんなに幸せな片想いは、今までで初めてかもしれない。

11月12日(金) 曇り

 

久美ちゃんがチャーハンを作ってくれて、だけどほんの少し辛くて、でも手 作りってとてもとてもおいしいなと思った。自分で作るのも好きだけど、外 食するのも好きだけど、でも誰かが私のために作ってくれたというだけでと ってもあったかい。お母さんの作った、炊き込みご飯とか久しぶりに食べた いな、と思った。

油の量だとか、生ゴミの上手な始末法だとか、洗濯はいつするかだとか。一 人暮らしだから悩んで苦しんで、だけどこうやって分かり合えて役に立つこ とがたくさんあるのだと思う。やっと身に付けることができた片手で卵を割 る方法を久美ちゃんに披露すると、むちゃくちゃ感動されてしまった。だけ ど目玉焼きをお皿に移すとき、なぜだか菜箸が黄身だけをどこかにふっ飛ば してしまって、久美ちゃんと大笑い。私は笑いすぎて腰が抜けたし、久美ち ゃんは涙流してた。

「ごっちはお酒弱いから、アルコール少なめにしとくね。」とマドラーで氷 をカランと響かせながら久美ちゃんが笑ってて、やっぱりかっこいいなあと 思った。久美ちゃんが初めて私のために作ってくれたカクテルはすうと喉を 通って、ゆっくりと熱らしてくれた。酔いが覚めたあとは、リラックスでき るというお香をたいてくれた。

真っ直ぐに気持ちを伝えてくれたノッチに、ごめんなさいの電話をした。本 当は直接言うのが一番だと思っていたけど、だけど言えなかった。久美ちゃ んが何も言わないけど電話かけるときは隣にいたげるよ、と言ってくれて、 それがとっても心強かったから。想われることは幸せなこと、と思っていた けど、何だかとても切なくて苦しかった。涙が止まらなかった。

布団に入って、久美ちゃんがずっとずっと私にとって大切になった曲をエン ドレスでかけてくれた。真っ暗な部屋はどこに何があるのかだなんて分から なかったけど、でも久美ちゃんの言葉は真っ直ぐであったかくてしっかりし ていて、確かにそこにあった。私は笑ってたけど、でも鼻声を風邪のせいに して少しだけ泣いてしまった。

恋愛のこと、家族のこと、夢のこと、一人暮らしのこと、ノッチからの告白 のこと、気になってしょうがないあの人のこと、部活のこと、友達のこと、 今日が忘れられない日になったこと。私はみんなでわいわい騒ぐのも大好き だけど、こうしてゆっくりとふたりで何かを語り合うのも大好きだ。日々の 色んな出来事に色んな感情を抱いて、それを秘密にしたりぶつけ合ったり、 こうして気持ちを語り合ったりして、少しずつ大人になっていくのかな、と 思う。

嬉しいと思ったときに嬉しいと素直に伝えられること、大好きだと恥ずかし がらずに伝えられること、それはとても大切なのだと思う。もちろん恋愛だ けでなく、親や友達やさまざまなものに対して。私は何だか久美ちゃんと心 の底から語り合えて、本当の本当に嬉しかったから、それをちゃんと伝えよ うって思った。ほんまに今日のこと忘れんと思うなぁと言ったら、久美ちゃ んも絶対に忘れられへん、と優しく言ってくれた。嬉しすぎて、やっぱり何 だか目の奥がぐうとなった。

11月11日(木) 雨のち曇り  久美ちゃん家でお泊り

 

天気予報は明日から天気は下り坂、なんて言っていたから、掛け布団と毛布 とまくらを太陽のしたに干してみた。ゆっくりチーズとハムを包んだ玉子焼 きを作って、タコさんウインナーを炒めて、赤いお弁当箱に詰めた。こんな に朝に余裕があるのは久しぶりで、やっぱり私は単純なのだと思った。

授業が終わったあと、教室をきょろきょろと見渡しても姿が見えなかった。 朝の約束忘れちゃったのかなあなんて少しショックを受けていると、音を消 した携帯がぴかぴかと光っていた。すう、と一度深くゆっくりと息をしたあ と、もしもし、と言った。「いまどこ?」と訊かれて場所を伝えると、部室 棟のほうまで来てくれ、とのこと。隣にいたくみちゃんが「あいつがこっち に来たらいいのにね」なんて言っていて、うんうんと頷いたけど、でも向か うのが苦に感じないのは、きっと恋をしているからだ。

バイクに跨る彼が少し遠くに見えて、彼だって分かるのに首をゆっくりと傾 けてみた。手をあげてくれて、ぱたぱたと近づいていった。横に友達くんも いたけど、ふたりともに「おつかれさま」って言った。これ、と鞄からCDを 取り出してくれて、ありがとう、と受け取った。貸してくれると言ってたの 以外にも一枚貸してくれるところが、やっぱり何だか優しいなって思った。

木の陰からわざとらしく私たちを覗いているくみちゃんとあゆちんに大笑い しながら、ただいまってふたりのもとに戻った。好きな人や気になる人と一 緒にいるところを見られるのは恥ずかしすぎるからあまり好きではないのだ けど、でも嬉しいってことを隠すわけでもなくふたりに「緊張した!」って 言った。くみちゃんが「あいつ私に対してはいつも敵意丸出しやのに、ごっ ちには優しいなぁ」って言ってて、笑った。

美容室のお姉さんは、私が何か嬉しい話をするとその度にスプレーだとか何 かの液を付けるのをワザトらしく乱雑にしてた。それに大笑いしていてすっ かり頬が赤くなっていると、「どうせこのあとも新しいヘアースタイルでバ イト先に行くんでしょ。そのすきなひとの。その真っ赤な顔して!」って大 笑いされて、ばればれだ、と思った。

あゆちんとふわふわにしすぎたパーマに笑いながら、買い物し終わったと連 絡をくれたくみちゃんともう一度待ち合わせをした。春から何度行ったか分 からないビビンバのお店に行って、おなかいっぱい食べた。春から秋にかけ て、部活とバイトの毎日だったからほとんど放課後のショッピングもゆっく りどこかで夕食をとることもなかったのだけど、やっぱりこうしていると大 学生って気分になってしまう。もちろん、勉強が一番でないといけないのだ けれど。

あゆちんとバイバイをしたあと、慌しい人の流れを見ながらくみちゃんと恋 愛観について語った。どちらかというといつも私のほうからもっとお話しよ うなんて言うのだけど、今日はくみちゃんが「時間あるんだったら語ろっ」 って言ってくれて、嬉しいなぁと思った。くみちゃんは春に出会ったころよ りも最近うんと大人ぽくなっていて、彼女もいい恋しているんだって思う。

「ごっちの恋ってほんまに障害多いけど、でも今回のはほんとに上手くいく と思うで。いまから会いに行くんやろ?いいなぁ、夜って何か朝とか昼とか にはない気持ちになれるよね。」なんて笑っていて、私も笑った。「春から ずっと東京におる人のこと引き摺ってるの知ってるし、今もやと思うん。だ けどあたし今のあいつのこと応援するよほんと。」って言ってくれて、くみ ちゃんには何だかほんとにいつも気持ちを見透かされちゃうって思った。あ りがとう、って言った。

明日お泊り会しようって約束して、バイバイをした。各駅停車の列車に揺ら れて、MDに耳をすました。いま隣に座っているおじさんも、ドアにもたれて いる女の子も、向かいの席で目を閉じているおばさんも、いま、何かを思っ ているのかなあと思った。おばさんも、私みたいに恋していたのかな。

スーパーの明かりが真っ黒な空に浮き上がってた。ただスーパーに入るだけ で深呼吸をしてしまうなんてきっと私くらいだろう。また帰りに寄るね、な んてさらりとお昼には言ったのだけれど。前髪を手で二度といてみて、ふわ ふわしすぎたところは耳にかけてみた。ふわ、と美容室の匂いがした。

明日のお弁当はアスパラベーコンにしようなんて思いながらアスパラを手に とって、ふとお刺身コーナーを何となく見たら彼が私に気づいていて笑って いた。もうきっと、何だか私の単純な気持ちなんてすっかり気づかれている んだろうな、と思った。目に入る食品なんて全部ぼやけていて、何やってる んだろう私、と思った。

気持ちだけが高ぶってしまう。目が合って、笑って、ありふれた会話をし て、だけどひとことひとことが大切なものとなって。「髪切ったよ」と言う と、「うん、わかった。パーマ。」ってにかって笑ってくれて、ぎゅう、と なった。バイバイをしたのにまたパンのコーナーにいたときに彼が近くを通 って、笑って。重くならないように重くならないように、と思っていたけ ど、何だか無理みたいだ。

家に帰って袋の中に選んで買ったつもりのないパセリだとかが入っていて、 そのときのどきどきが伝わってきた気がした。くみちゃんの言うとおり、ま だずっとパックンのことを変わらず想う日があるけど、でも会いたいと思う ひとがいるよ。部屋に借りたCDをエンドレスで響かせて、想うひとがいるよ。

11月10日(水) 晴れ

 

部屋いっぱいに大好きな曲を響かせて、うろ覚えの歌詞とメロディは鼻歌に して、カーテンをシャっと開けた。朝いちばんの光に目を閉じたけど、でも もうすぐ冬だというときの朝の光は、どこか優しいなぁと思った。目覚まし よりも先に起きることができたときは、何だかいいことありそうだって思っ てしまう。小学生のときからの、おまじないみたいなもの。

春に想いを伝えて、だけど余計に曖昧な関係になってしまって。小さな恋を する度に、苦しかった。恋をすることは何よりも楽しいことのはずだったの に、悩んでばかりいたように思う。東京にいるパックンのこと、ずっとずっ と想ってた。やっぱりパックンのことを大切に想うときの私が、一番自分ら しくいられることに気づいた。

私に対する気持ちを真っ直ぐに伝えてくれた人がいて、告白をすることの大 切さみたいなものをすごく実感したことがあった。苦しかったけど、こんな にも大切に想ってくれる人がいるんだって、すごく自信になった。どうして 私はパックンに、真っ直ぐに気持ちを伝えなかったんだろうと思った。いつ も冗談で接することしかできなくて、きっと伝わっていたと思うけど、直接 言ったことはなかった。

そんな小さな後悔を、生かせたいなと思う恋をしたかもしれない。また、小 さな想いのまますぐに消えていくかもしれないけど、だけどすう、ととても 真っ直ぐに惹かれているのがわかる。一匹狼のような、どこか掴みづらい雰 囲気を持っていて、だけどとても優しい一面を持っていること。こんなに誰 かに真っ直ぐに惹かれたのは、パックンに対する気持ち以来だ。

春に出会って、なかなか授業に出席しない彼とはこれからずっと話すことは ないと思ってた。どこか恐いイメージがあったから、初めて隣の席になった ときも、この一時間ずっとひやひやして過ごすのかなって思ってた。だけど 家が近いことを知って、彼のバイト先は私がよく利用するスーパーだと知っ た。そのときから、少しずつ話すようになった。

彼が後ろの席だったとき、「おれ明日誕生日やねん」なんて大きすぎる声で 言っていて、私は直接会話をしていたわけではなかったけど、でも何となく ずっと耳に残ってた。だから次の日、喫煙所で彼を見かけたときに「お誕生 日おめでと!」と、ひとこと言ってみた。そしたら目を丸くして、だけど嬉 しそうに「おう」と言って、ありがとうと笑ってくれた。その日から、授業 や休み時間にどこかで会うと必ず話しかけてくれるようになった。

スーパーに寄る度にお刺身コーナーを覗いてたのは、今思えば彼に会いに行 ってたのかもしれない。半額シールをそうっと貼ってくれて、声にならない 声でふたりで小さく笑った。被ってた制服の帽子を取ったあと、もう一度に かって笑ってくれて、少し、どきっとしたこともあった。

だから、この前の授業で隣になったとき、カラオケ行こうかと声をかけてく れて、素直に嬉しいと感じたよ。講師に見つからないように一番後ろの席で そうっと携帯を交換して、番号を教え合いっこ。顔が少し熱くなるのがわか った。そのあと何もなかったようにふたりで会話文をみんなの前で発表する のは、何だかすごく照れくさかった。耳が、熱かった。

帰りを一時間半も待っていてくれた。バイクのヘルメットに温かい缶コーヒ ーをそうっと隠して。小さな優しさが今の私にはとてもとても嬉しく感じる こと、彼は知ってたかな。もう後悔はしたくないから、伝えられるだけのあ りがとうを伝えていきたい。ありがとう。ほんとに温かくて、嬉しくてしょ うがなかった。

*

斜め後ろの席のりえちゃんと話そうとしたら、その後ろに彼がいた。慌てて 前に向きなおして、「心臓とびでそう!」と、りえちゃんにメール送信。ど こにやつがいるのよ?なんてメールに「りえちゃんのまうしろ」とだけ、返 信。どきどき、どきどき。こんなどきどきはきっと、高校以来だ。「うそ ん。笑 あたし後ろ向けんやん!さやかちゃんも向けないでしょ」なんて返 信があって、大笑いを堪えるのはとっても大変だった。ただただ、顔が熱っ ていくのがわかった。

教室を出たすぐの喫煙コーナーに、当たり前のように彼は座ってた。きっと いるだろうなんて変な確信があったから驚かなかったのだけど、でも驚いた ふりをした。嬉しさが顔に出る前に、わぁ、と言った。おはようと言うと、 おう、と笑ってた。いつもこのひとは、おう、って言うなぁ。

*

早起きが出来たのも、きっと君のおかげです。おはよう。今日も、会えたら いいな。

11月9日(火) 晴れ

 

喫煙コーナーの近くを通るたびに、姿を探してしまうこと。黒い服を見るた びに、気づかないふりをして、だけど嬉しくなること。たった一度お出かけ をしただけでこんなに気になってしまうのは、やっぱり私がすごく子どもだ からなのかな。だけど、こんな気持ちになるのはきっと高校のとき以来だか ら、今がすごくすごく楽しい。

「ほらほら、真ん中座って!」と、りえちゃんとゆかちゃんが私を手招きし てくれたので、笑いながら真ん中に座ってみた。ふたりの前でどうしよう、 と眉毛を下げずに恋愛の話をしたのは初めてかもしれない、と思った。春か らふたりにはパックンのことも小さな恋みたいなことも何でも話してきたけ ど、その度に悩んでばかりいたから。

缶コーヒーをメットに入れてバス停で待っていてくれたときのことを立ち上 がって再現してたら、「ときめいた!いつのまにか自分と重ねちゃったよ」 とりえちゃんが一緒になってどきどきしてくれた。ゆかちゃんが、「悩んで ないさやかちゃん見るの久しぶりかもしれん!」って言ってくれた。こんな 風に嬉しかったりどきどきしたことを真っ直ぐに表現できたのは、やっぱり 高校のとき以来かもしれない。

*

プリント片手に階段を駆け上がると、マンガみたいに当たり前に彼がいた。 よお、という言葉は周りにいる人たちではなく私に向けられたもので、おは よう、と笑った。テストがあること知っているのだけど、今日テストだよね なんて訊いてみたりして、一緒に範囲を確認したりした。くしゃくしゃにな ったプリントから頑張って勉強した姿が浮かんで、思わず笑ってしまった。 前期はきれいな教科書が自慢だったのに、ね。

テストでどっちが勝つかなんて中学生みたいな言い合いをしてたら、いつの まにかバイトの話になっていて、「もう俺クリスマスもバイト入れるもん。 さみしいやつやから。」なんて言っていて、わぁ、と思った。気になる人が そう言ったとき、恋愛の達人なら何て言うのだろうか。私はただ、言葉にで きなかった気持ちをぐうと飲み込んで、目を逸らすことしかできなかった。

先に口答試験が終わった彼のもとへ、みんなが一斉に「どこが出た?」なん て向かっていた。一緒になってうんうんと聞きながら、ふたりでお出かけし たことをみんな知らないんだって思ったら何だか恥ずかしかった。夢みたい に実感のないもののように思えてきたときに、ふと目が合って、あのときの 目と一緒だ、と思った。大丈夫大丈夫、と言っていて、うんって笑った。

*

帰りのバスの中で、まだ聴きなれないMDに耳を預けた。ぎゅうとどこか歯痒 くなって、頬が緩んでしまうこと。家までの道のりが、あっという間に感じ ること。きっと、私、恋をしたんだと思う。

11月8日(月) 晴れ

 

駅の売店でプッカとプリッツどちらにしようかと指先を躍らせていたら、売 り場のおばさんに大笑いされてしまった。じいと見られているのにも気づか ないで真剣に迷っていたのがおもしろかったみたい。恥ずかしくなって慌 ててプッカを買ったあと、少し早足で改札を抜けた。くみちゃんに着いたよ と連絡をして、ゆっくり待ち合わせ場所まで歩いた。

家族に一ヶ月や二ヶ月に一度しか会えない分、友達が家族みたいだ。大学生 にもなって、と思うけど美白を最大にしてプリクラを撮った。マネージャー の中でもいつもくみちゃんと私は落書きするのを取り合う仲だから、ちゃん とふたりとも落書きができるのを選んだ。美白のにしたのに、まだやっぱり 黒いねって笑った。部活がオフになったのは嬉しかったけど、でもまだどん な風に休日を過ごせばいいのかわからないや。

買ったばかりなんだ、と嬉しそうにソファに寝転がっているくみちゃんはむ ちゃくちゃ可愛かった。だんだんと増えていく家具が嬉しいこと、だんだん 自分らしさが表現できる一人暮らしの部屋は、ほんとにどんなお城よりもす てきだと思う。私も冬までに欲しい家具があるから、がんばって貯金しない とだ。

一緒にカラオケ行ったんだけどね、なんてやっぱり私は頬の緩みを隠せない で話し出して、すっかり呆れられるかと思ったのだけど「あいつはいいやつ だよ、そっかぁ!あいつかぁ!応援するする。いかついけど、ほんと根は優 しい子やと思うよ」なんてむちゃくちゃ応援してくれた。このひとことが聞 きたくて、くみちゃんに会いに来たのかも、と思った。

「恋愛ってね、付き合うことが最終目標みたいに考えている人が多いけど、 でも違うよね。そりゃそれもひとつの考え方だけど、いつのまにか一緒にい て、お互いが恋愛以外にもがんばれて、刺激し合えていくのがいちばんだと 思うなぁ。束縛とかそういうのじゃなくて、彼にとっては一番が仕事で、二 番目に私がいる、みたいなのがいいかな。」

うんうん、と大きく頷いて、くみちゃんもいい恋愛しているんだなって思っ た。まだ恋愛のれの字も理解できていない私だけど、でも中学や高校のとき よりかはうんと考え方も落ち着いてきた気がする。一目惚れの恋が多かった けど、一緒に話したり笑ったりお出かけしたりして、もっと一緒にいたいな って思うことのが多くなった。

プッカを食べて、私のバイトが始まる少し前までずっとくみちゃんとお話し てた。ここの鶏肉が安いのよ、なんて主婦みたいな会話をして駅まで向かっ た。くみちゃんと別れたあと、MDウォークマンを鞄から取り出して、耳をす ませた。春からMDを変えたのは初めてかもしれないな、と思った。思い出の 曲はケースに閉まった。昨日、黒髪の似合うあのひとが歌ってた曲を、目を 閉じて聴いてみた。

バイトで手先がすっかり荒れてしまってたあのひとのために、ハンドクリー ムでも買ってあげようかなぁなんて思った。明日は月曜日。明日、が楽しみ になるのは何だか久しぶりだ。恋、しているのかな。

11月7日(日) 晴れ

 

バス停から降りて見上げると、階段の一番上に彼がいた。黒っぽいジャンパ ーがよく似合っていて、視力の落ちている私でもすぐにみつけることができ た。彼をひとことで表すなら絶対に黒、だと思う。きっと私以外の誰かが表 すとしても黒だというだろう。真っ直ぐで、何にも染まりそうにないひと。

横断歩道を渡って少し早足で階段へ向かうと、いつの間にか降りてきてくれ ていた。こうして二人で話したり会ったりするようになって、優しいところ に気づくようになった。春ころは少し近寄り難いひとだと勝手に決め付けて いたから、何だかやっぱり、いまが嬉しい。

たばこの煙が私に届かないようにすうと吐いてた。小さなことでも気づいて しまうのは、すごく意識しているからなのかなあと思ったけど、でもきっと そうだと思う。友達、だけど。「おれの一番好きな曲。」と言っていきなり 後ろを向いたかと思うと、歌詞を見ずに最初から最後まで歌ってた。おもし ろくてずっとずっと笑ってしまった。

私はバラードばかり歌うからよく友達を退屈させてしまうのだけど、だけど ほんと和むわぁなんて言いながらずっと歌詞を追いながら一緒に口ずさんで くれた。一度も携帯に触ってなかったし、コード本に読み耽ってることもな くて、ほんと歌ってても気持ちがよかった。ずっと聴いててくれてありがと うね。

私が好きだと言ってた曲はさり気なく予約して歌ってくれて、それ以外は知 ってる?って必ず訊いてから予約してた。歌いながら目が合ってにかって笑 ってくれて、彼が歌っているときに目が合うと目と一緒に歌う声も笑ってい て、楽しいなあと思った。

ほんの少しだけ多く会計を払ってくれるところだとか、さり気なくいつも先 を歩いてくれるところだとか。一緒にいて安心できるひとなんだと知れたの も、こうやって二人でいなかったらきっと気づけなかったことだ。帰りのバ スの時間を見てくれて、バスが来るまで一緒にいてくれた。ばいばい、と手 を振って笑った。ぎゅうとなるほど苦しくはないけど、少し淋しかった。

*

私は単純だから、二人きりでお出かけするというだけでほんの少し意識して しまう。ただのクラスメイトで友達で、それ以上でも以下でもないとわかっ ているのに、ほんの少し特別になる。きっと月曜日、また一緒の授業で笑う んだろうなぁ。大学生って何だかとっても複雑で難しくて、やっぱり私はす ごくすごく幼くて、単純なんだと思う。(だけど男の子とふたりでカラオケ って初めてだったんだもん!緊張しなかったって言ったら、きっとうそにな ってしまう。)

11月6日(土) 晴れ

 

白い息をふわふわさせて、くみっちと膝掛け毛布にふたりで一緒に包まって、 肉まんだとかおでんにふはふは温かいねって笑って。西部くんの車にみん なでぎゅうぎゅうに乗り込んで、少し田舎に出て深夜2時過ぎの夜空の下に 降りた。バイトが終わったあと枝ちゃんと帰ろうとお店の裏口の戸を開けた ら、「天体観測しよっ!」ってくみっちがにかあって笑ってたから。

ごろんと横になって、白い息がすうと昇っていくのをみた。ピントをゆっく りと緩めると、小さな白い光が揺れてた。いつもはおしゃべりなみんなが、 このときだけ静かになる。夏の海でも、そうだったね。流れ星は見れなかっ たけど、こうして肩の力を抜いて夜空に包まれるだけで、何でも叶いそうな 気持ちにさせてくれる。

星空の下で、みんなはそれぞれどんなことを思ったんだろう。私は、何を思 ったんだろう。車に戻って枝ちゃんのジャンパーに頬を埋めて、温かいって 笑った。季節は確実に冬へと向かっていて、それに逆らうこともなくきっと 流されていくのだと思う。白い息を見ては思い出すこと、星空を見てはどこ か同じ空の下にいるあのひとを思うこと。きっと、これからもずっと、そう なんだろうなぁ。

*

くみっちがふかふかの帽子を被りながら、「いけやんにはほんと幸せになっ てほしい!」って笑ってて、心がふわあって温かくなった。ローソンの肉ま んもガストの日替わりスープも温かかったけど、だけど私には大切な友達が こんなにも近くにいること、それって何よりも温かいことだなって思った。

*Thank you...!*
Kumicchi,Eda-chan,Yucchi,Takei-kun,Nishibe-kun

11月5日(金) 晴れ

 

今日三宮に行く用があるから帰りにまたスーパー寄るかも、と言うとほいじ ゃあ待っとくよなんて笑ってた。さり気なくデートに誘ってくれたり、電話 番号を聞いてくれたり。きっとこのひとは色んな女の子にこんな風にして接 することができるんだろうな、と思ったけど、でも頬の赤さを信じてみても いいかな、と思った。

*

あゆちんと初めて丹華の家におじゃました。水餃子を全部手作りで準備した のは生まれて初めてで、作りすぎちゃったねって笑った。丹華は中国からの 留学生で、夏に参加した学外実習で知り合った女の子。餃子を包むのが人一 倍遅くて下手くそな私を、ほんとにしょうがないなあなんて笑いながら何度 もアドバイスをくれた。お母さんみたいだ、と思った。

丹華は中国語はもちろん日本語もとっても上手で、韓国人の友達もいるから 韓国語もすらすらと話せるみたい。大学で丹華と話していたら周りに色んな 国から来た丹華の友達が集まってきて、丹華を中心に色んな国の言葉が飛び 交っていた。あゆちんと「え?今は何語なんやろ?」なんて笑った。

食べ過ぎちゃったねって笑いながら丹華の家から帰るとき、携帯に着信があ った。電車の中だったから出ることができなかったのだけど、バイトが終わ ったのかなって思った。もう少し早く帰ってたらスーパーでお話できたのに なあなんて思いながら、何で気にかけちゃうんだろう、と思った。

電車を降りたあと、着信にやっと出れたら「終バス10時40分ころやったで」 と教えてくれた。わざわざ見に行ってくれていたことも、9時でバイトが終 わったはずなのにこうしてまだ駅にいてくれていたことも、素直に嬉しいな と思った。バス停まで少し早足で向かうと、よお、と笑う彼がいた。

おつかれさま、と言った。授業中はみんなでわいわいと話す仲だったけど、 こうして大学以外の場所で会うと何だか照れくさかった。「コーヒーと紅茶 どっちが好き?」と訊かれて、コーヒーかなあと言うと持っていたヘルメッ トの中から缶コーヒーを取り出してくれて、ぽいっと投げるふりをしてた。 飛んでくるのかと思って目を瞑る私を笑いながら、優しく手渡しでコーヒー を渡してくれた。あったかい、と思った。

「コーヒーていうか、カフェオレやけど。俺カフェオレしか飲めへんから」 って笑っていて、私も笑った。冷えてた頬に缶コーヒーをぎゅうとあてて、 じんと頬が緩むのがわかった。鼻の奥がつんとして、視界が少しぼやけた。 コーヒーはあのひとを思い出すものでしかなかったけれど、でも温かい思い 出ができた。嬉しい、と思った。

たったの15分間が特別になるかそうでないかは、きっと私の受け取り次第。 嬉しいと思ったし、ぎゅうってなった。だけどその気持ちもただふわあと融 けていくだけだ。素敵な恋のきっかけなのかもしれないのに、恋になるのが すごくすごく恐いよ。いつかまた、真っ直ぐに誰かを想えるのかな。

11月4日(木) 晴れ

 

私きっと気がついたら東京行きのバスに乗っているんだろうな、なんて春こ ろから思うことがあったけど、それがだんだんと確信に近づいている気がす る。もちろん会えるだなんて思ってないけど、でも好きな人の住んでいる街 として、東京を訪れてみたいと思った。バスに乗っている数時間でも、得る ものはあるはずだから。

空を見上げるだけでも、目を瞑っても、ぐうと何かが込み上げてくるのは冬 が近づいているからなのかな。都合のいいように編集されてしまった思い出 は何度も何度も繰り返し映し出されていて、だけどふわあとあったかい気持 ちになる。きっとあのときの私が、まっすぐにまっすぐに、恋をしていたか ら。

*

いつも仲良しのマネージャー4人で座る芝生の四角ベンチに、のっちと座っ た。成績のことだとかバイトのことだとか、明日の試合のことだとか。こう して呼び出されたことの意味は何となく気づいていたけど、春からいつかこ んな日が来るのかもしれない、なんて思っていたけど、想いを伝えられるこ とは何だかとても照れくさくてしょうがなかった。

もう気づいているとは思うけど、というひとことに目を合わせられなくなっ てしまった。真っ直ぐに想いを伝えられることも、こんなにも私のことを大 切に思ってくれた人も、きっと生まれて初めてだ。じんと心に響いて、思わ ずふはっと笑ってしまった。ありがとう、と言った。

*

真っ直ぐな真っ直ぐなひとで、春に知り合ったころから何となくだけど気持 ちは気づいていました。なのに私はいつもパックンのことばかり相談を持ち かけていたし、メール返すの遅いだとかって何度も怒らせたね。それでも好 きだと言ってくれてありがとう。こんなにも真っ直ぐに告白をされた私は、 とてもとても幸せものなんだと思う。

だけど、私の心の中はすごくすごく汚いよ。東京に行きたい、とずっと、今 でも思ってる。新しい恋をしよう、と試みてみたけれどただただ自分が汚く なっていくだけだった。のっちに真っ直ぐに想われるほど、私ぜんぜんいい 子なんかじゃない。ずるずると、思い出ばかり振り返ってるよ。

*

告白をされたこと、すごく嬉しかった。だけど、いまはまだどう応えたらい いのかわかんないよ。たぶんきっとどんな選択をしても、のっちを傷つけて しまう気がする。夕焼けと芝生の色が眩しくて、のっちの優しい視線が温か くて、だけど何だか苦しくてしょうがなかった。

11月2日(火) 晴れ

 

11月15日〜11月26日分のログ

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