いまにも雨粒を零してしまいそうな重い空。いつのまにか空の表情を自分の それと置き換えなくなったことに気が付いた。晴れの日は何でもプラスにし ちゃうところは相変わらずだけれど、曇りの日の心持ちが以前とはまるで違 うなあ、と思う。それもきっとこのひとのおかげだ、と斜め前を歩く坂井く んの背中を見ながら思った。

私の好きなカルピスソーダのペットボトルを籠に入れてくれて、坂井くんの 好きなチップスターをその横に入れた。車に乗るときにそれらが入った買い 物袋を渡してくれて、それを膝の上に乗せて助手席に座った。前みたく道案 内をしなくても私のアパートに当たり前みたく着いて、何だかくすぐったか った。

コップだとか氷だとかの置いてあるところを知ってくれていて、わぁ、と思 った。坂井くんのレポートを仕上げるのに、私がひたすら原稿用紙にポイン トだとか書いて、そのあいだ坂井くんはというとまた大きな声で歌ってたり して、何だかなあという感じだった。でもほんとに気持ちよさそうに歌うの で許せてしまうのだけれど。

ときどきくすぐってきて、膝にごろんってしてきて、その度に恥ずかしすぎ て嫌がっているふりをしてしまった。嬉しいのにどうすればいいかわからな くて、何だか反対のことばかり言ってしまう。だけど後ろからぎゅうってし てくれたときは、言葉にはならなかったけど腕をぎゅって握り返してみた。 嬉しいってこと、ちゃんと伝わってたらいいなあ。恥ずかしいけど、照れく さいしくすぐったいけど、ゆっくり伝えられますように。

*

すぐに照れてしまう私の癖は、父から受け継いでいるんだ、と思った。ふた りで食事なんて本当に久しぶりだねと言っただけで、おう、と言いながら父 はすっかり黙り込んでしまっていた。初対面の人との沈黙はとても重いけれ ど、親しい人や大好きな人との会話の中で時折できる沈黙は、少し心地がい い。

お母さんもこんな風にお父さんと食事とかしたのかなぁ。きっとおしゃべり なお母さんがたくさんお話をしていて、お父さんは顔を真っ赤にしながら相 槌をうってばかりだったんじゃないかな、なんて思った。きっとそうだ。お 母さんが電話でよく「離れてからさやかのことほんとに愛しくなったよ」と 言ってくれるのだけど、私も一人暮らしを始めてから家族を想う気持ちがう んと強くなったように思う。

*

大好きだとか大切だとか、気持ちが大きくなればなるほど伝えるのは難しい けど、ゆっくりでいいから伝えていきたいなあ。大好きな人に、大切な人に。

1月30日(日) 晴れのち曇り

 

少し駆け足でグラウンドに下りただけなのに、フリース生地のスウェットは すっかり熱をもってしまった。少し腕まくりをして、由佳ちゃんに今日は暖 かいねって言った。春みたいだ。また週明けにはうんと冷えるみたいだけど、 目をぎゅうと閉じてしまうほど寒い日があるからこそ、今日みたいな日がと っても愛しくなってしまう。

部活が終わったあと、1回生のマネのみんなでもう一度グラウンドに出た。 こおりおにだとかダルマさんが転んだだとか、アメフトもどきだとか。久美 ちゃんも理絵ちゃんも由佳ちゃんも高校まで運動部だったからとっても元気 で、私はこおりおにで一度鬼になっただけで息が苦しくて情けなくなってし まった。だけど体を動かすのは何だかとっても好きだ。苦手だけど、好き。

みんな本気で走り回って、部員さんとのアメフトのゲームでは何だか部員さ んもみんな本気で、作戦も真顔で考えていておもしろかった。(もちろんシ ョルダーとかは着けないけど)いつでも本気で尚且つ元気すぎるみんなが大 好きだし、お腹が痛くなるまで笑い転げられるって絶対に幸せなことだ。み んなと出会えてよかったって、きっと今なら恥ずかしがらずに胸を張って言 えそう。(やっぱり少し恥ずかしいけど)

*

月の光を受けて、もうひとつの私も立ち止まったり振り向いたり。バイトで 疲れたなあって気分が重くなっていても、今日みたいな澄んだ夜空の日は重 い気分も体もすうと軽くしてくれる。ぴかぴかと光る携帯。マナーモードを 解除してなかったや、なんてメールを見ると坂井くんからだった。バイト終 わった時間が遅かったから寝ているかなと思ってたのだけど、起きてるよっ て書いてあった。嬉しいなあって、また体がすうと軽くなった気がした。

電話越しでも、どんな表情しているのかが伝わってくる気がした。いつもほ とんどメールだから、こうしてときどきかけてくれる電話がとっても嬉しく て、嬉しいのと同じくらい緊張してしまう。ふはあって最後におっきなあく びしていて、ふはって一緒に笑った。私がグラウンドで走り回っていたころ、 坂井くんも高校のときの先輩と球場借りて野球してたみたい。ぽかぽか暖か かったこと、坂井くんもそう思ったって言ってた。嬉しいなあ、と思った。

*

明日は父が用事で神戸に来るみたいなので、三宮あたりでお昼一緒に食べる ことになった。電話で「じゃあ12時半頃にバス乗り場のとこね」なんて話し ながらデートの約束みたいって思った。ふたりで食事なんて何年ぶりのこと だろう。そのあと、2時ころから私がバイト行くまでは坂井くんが家に来て くれることに。やったぁ!締め切り前日になって焦り出す彼のレポートを手 伝ってあげることにします。ほんとにもう。

1月29日(土) 晴れのち曇り

 

カーテンを開けると、水色が目に飛び込んできた。バス停までの道のりをぱ たぱたと走らなくていいように、いつもよりも2分早く家を出る。声の大き なおじいさんにいつものようにおはようございますを言うと、私が恥ずかし くなってしまうくらい大きな声で「おはようございます!」といつもみたく 言ってくれた。ふふ、と思わず笑顔になってしまう。気持ちがいいなあ。

銀行に寄って振り込みを済ませて、郵便局で切手を買って封筒にぺたんと貼 った。手帳の端っこに書いていた「今週中にすること」のリストにふたつ線 をひいて、手帳をカバンに入れた。水色の空を見上げた瞬間、ぴかっと光を 反射させた飛行機をみつけた。太陽と、飛行機と、私と。信号待ちをしてい ると熊みたいな犬を散歩させている小柄な女の人が隣になった。何だか見る もの感じるものすべてが新鮮で、やっぱり晴れた日って好きだなあ、と思っ た。

2限の試験勉強をするために図書館の2階でプリントと睨めっこをしている と、黒いジャケットの坂井くんがやって来た。約束も何もしていなかった のでびっくりした。偶然が嬉しいなあ、と思った。斜め前の席にカバンを ぽん、と置いていたので、うわあ、と思った。飲食禁止だけど、と私のす ぐ隣にしゃがみこんでパンを食べていた。いっぱい笑った。

少しして、坂井くんの友達くんたちが来た。プリントを見せてもらう約束 してたみたい。斜め前に置いてあったカバンを肩にかけて、友達くんのと ころにすぐに行ってしまった。友達くんがうらやましかったけど、約束も せずにこんなところで会えたのはやっぱり嬉しいから、素直に喜ぶことに した。きっとあのまま坂井くんが斜め前にいたら集中できなかったと思う し。

試験の満足度はあまり高くないけど、やっと残り2科目になったのでもう 少しがんばります。試験が終わったらお好み焼きパーティにお泊り会に すき焼きパーティに大忙しだし。あともう少し、もう少し。

1月28日(金) 晴れ

 

午前4時まで起きていたのに、坂井くんが来るというだけで7時半にぱっち り目が覚めてしまうなんてやっぱり私は単細胞なのかもしれない。大好きな 曲を大音量でかけて、洗濯物を干すためにベランダに通じる窓を開けた。歩 道に、私の好きな曲が響く。好きなひとに会う前は、どうしてこんなに気持 ちがあったかくなるんだろう。ドキドキが苦しいのに、心地いい。

近くのコンビニにお菓子でも買いに行こうかなあと玄関を開けると同時に、 坂井くん専用の着信メロディが響いた。いまから行くわあ、とメール。ほん とにタイミングがいいのか悪いのか、と思いながらふはっと笑った。お菓子 は諦めてひざ掛け毛布に包まって教科書を開いた。もう一度玄関を開けたら きっと、さぶいと肩をまあるくした坂井くんが待っているはず。

ふたりで同じ教科書を開いて、どこか出るだろうなんてやまを張り合った。 坂井くんはただでさえ声が大きいのに、更に大きな声で例文を覚えようとす るから私はずっと怒ってばかりだった。だけれど「もう、」という声は思っ たよりも明るくなってしまって、本当は怒ってないことがばれてしまったか もしれない。

ときどき肩に頭を乗せてきたりだとか、おなかをくすぐってきたりだとか。 「おれ、邪魔するし。勉強させんよ」なんて言われて、そういうふとしたひ とことにすぐ赤くなってしまう頬がくやしかった。教科書を読んでいても、 すぐ傍に大好きなひとの頭がある。こういうときにちゃんと教科書を読める 女の子はどれくらいいるんだろう。私は、何だか全然読めなかった。

私のほうがきっと好きの気持ちが大きい、だとかそんな小さな不安でいっぱ いになっていた。だけど、坂井くんの笑顔だとか温もりはそんな不安をすぐ にどこかへ持っていってしまった。気持ちの大きさなんて関係ないね。一緒 にいて、楽しいなあって、しあわせだなあって。付き合うってこういうこ となのかなって思ったよ。

*

試験開始前の、ざわざわとした教室。少し後ろに坂井くんをみつけた。少し 前までは目も合わないことが不安でしょうがなかったけれど、でも何だか今 日は不安にならなかった。一緒の教室、みんなには内緒の、ふたりだけの秘 密。内緒にしようって言われたときはいやだなあと思ってたけど、でもいい かもしれないなって思ってみたよ。試験、がんばろうね。

1月27日(木) 曇り

 

平日の午後十時過ぎは、とってもゆったりと時間が過ぎていく気がする。家 でテレビなんかを見ていたら、きっとまた違った過ぎかたをするのだろうけ ど。橙色の照明、暖房のきいたフロア、時折聞こえる笑い声と氷の融けるお と。頬を赤くしたお客さんに「ほんとかわいい笑顔してるわねえ」と言われ て首を振っていると、横でたんちゃんが「いけやんさっすが!」と笑ってい た。

閉店後に溜まっていた食器を洗っていると、武井くんがコーヒーを淹れてく れてた。みんなのいるところに戻って、おつかれさまを言った。この居酒屋 さんで働くようになって、10ヶ月が経とうとしている。店長には相変わらず 怒られてばかりで、泣いた日もあるし何度も辞めようと思ったけど、でも同 じバイト仲間だとかお客さんが大好きだからここまでこれた。ありがとう。

バンダナを取って、エプロンのポケットに入れた。携帯にはメールが届いて いて「明日ドイツ語教えてくれん?」と、坂井くんからだった。いつも会お うだとか約束を持ちかけるのは私ばかりなので、こうして坂井くんから約束 を持ちかけてくれることがとっても嬉しい。いいよ、と嬉しい顔文字をつけ て返信してみた。午前一時。起きてるかなぁ、起きててね。

ふはあ、と今日も白い白い息。丸い月のまわりには、霧に月明かりが届いた からなのか白い輪ができていた。空を見上げては願ったこと、月を見ては想 ったひと。夏とは願いごとも想うひとも、かわったよ。それはとてもとても 悲しいことなのかもしれないけれど、もう、後ろは向かないことにしたから。

*

明日の朝9時ころに、坂井くんが家に来てくれるみたい。掃除しなくちゃだ。 眠いのに!バイトで疲れてるのに!それでもがんばれちゃうのは、やっぱり 君を好きだから。くやしいけど、実感するよ。

1月26日(水) 曇り

 

たとえば、コアラのマーチを買い物籠に入れたときだとか、ノートの白黒コ ピーに赤や黄色のマーカーでラインをひいているときだとか。私は彼に恋を しているんだな、と改めて気づかれてしまう。坂井くんが「イチバン好きな お菓子やねん」と言っていたコアラのマーチは、冷蔵庫の上の籠の中に。

久しぶりだね、と笑った。どうしてだか分からないけど、こうしてふたりで 会うときでないと上手に話せなくなってしまう。学校ではほとんど会わない もんなあ、と言われて、私はよく見かけるのだけどなあ、と思った。きっと この小さな違いは、まだ私のがほんの少しだけ坂井くんよりも多く好きだか ら、だと思う。くやしいけれど、きっと。

コピーしたノートを渡せば坂井くんは帰ってしまうから、本当は渡したくな かった。もう少し自分に自信があったりしたら「帰ってほしくないよ」なん て素直に言えてたかもしれないけど、どうしてだかまだ自信がないでいる。 自信がないということは彼のことも信じていないということだよ、と友達に 言われたけど、そうじゃなくて、何だろう。まだやっぱり片想いみたいだ。

*

きっと坂井くんは恋愛を三番目くらいに大切に思っていて、私は一番目か二 番目くらいにどうしても考えてしまうから、いまこんなに不安になっている のだと思う。だけど友達を大切にしていたりバイトをがんばっている坂井く んだからこそ好きになったんだから、うん、だいじょうぶ。大丈夫。

*

試験期間に入って、夜遅くまで図書館に残ったり家の近くのガストでノート を広げたり。どうやら私は勉強することがやっぱり好きみたいだ。頭は決し て良くはないし、暗記力もないし結果は残せていないような気がするけれど。 ただ、漠然と好きだなあと思った。

理絵ちゃんと部活で一緒の役職になった。新しい計画について語りながら、 すごくいま自分の声や表情が生き生きしているなあと感じた。好きなことを 企画だとか計画するのはやっぱり楽しい。私の場合計画倒れになることが本 当に多いのだけど、理絵ちゃんとなら絶対に実行できそう。がんばれること や目標があることは、すごく大切なこと。がんばる!

1月21日(金) 晴れ

 

まだ彼、という響きには慣れていなくて、私の中で坂井くんは坂井くんのま まだ。会いたいときに会えるのかなあと思ったけれど、相変わらず私も坂井 くんもバイトだとか部活で忙しいし、本当は会いたくてしょうがなくなった りもするけれど、坂井くんにごめんと言わせるのはとても嫌だから、少しだ け気持ちを抑えてみたり。きっとそのほうが会えたときの嬉しさが何倍にも なるはずだし、なんて考えてみたりして。

同じ教室にいて、声が聞こえて、ときどき笑って。みんなに内緒というのは 何だかやっぱりくすぐったくて、本当は言いたくてしょうがないのだけどな あ。まいちゃんたちみたく手を繋いで休み時間キャンパスを歩きたいなんて 思ってしまったりもしているけど、そんなことはこれから先ぜったいにしそ うにない坂井くんだからこそ、好きになったんだよなあ。

*

あゆちんと、四葉のクローバーにすっかりはまっています。ネックレス用だ ったのをふたりでストラップに変身させて、おそろいで付けてる。いいこと ありそう!お財布をクローバーをモチーフにしたのに変えたばかりのときに 坂井くんと恋人同士になれたから、きっとすごくすごくパワーがあるのだと 思う。クローバーってすごい!

*

いまの居酒屋さんでアルバイトを始めて十ヶ月目になりました。相変わらず 店長には注意されてばかりだけど、お店に飲みに来るお客さんや一緒に働い ているバイトのみんなが大好きだからまだまだがんばれそう。店長に怒られ たあとでほんの少し目が涙目になっていたときに、「笑顔がいいなあ。きみ きっと幸せになるよほんと」とお客さんに言われた。酔っているから本音か どうかは分からなかったけど、とっても優しく心に響いたひとことだった。 がんばる!

1月15日(土) 曇り

 

雑貨屋さんでみつけたバニラのアロマを部屋に置くようになって、その甘い 香りが何だかすっかりお気に入りになってしまった。香水みたいな大人な香 りは私には似合わないやなんて思っていたので、私の香りになりますように とコットンに含ませてほんのり香るようにしていた。だから坂井くんが耳元 で「香水か何かつけてるやろ?」と言ってくれたとき、何だかとっても嬉し くなった。私の香りに、なりますように。

付き合うことになったといっても、何だかずっと私の片想いが続いているみ たいだ。呼び方は相変わらず"坂井くん"だし、きっと私のが会いたい会いた いってたくさん言っている気がする。だけど嫌われるのが恐くて言い過ぎな いようにしたり。彼女、なんだからわがままになってもいいのかもしれない けれど、やっぱりまだ何だか難しいや。

学校のみんなには内緒にしよう、ということになっていたのだけど、あゆち んとorganという可愛いカフェでランチをしていたときに坂井くんとのこと を話した。「ほんと近くで見てて、絶対うまくいくだろうなって思ってたも ん。よかったぁ」なんて言ってくれて、すごく嬉しかった。坂井くんにあゆ ちんに話してしまったことを言うと、「ぜったい言うと思ってたよ」なんて 言われてしまった。ふはあ

1月7日(金) 晴れ

 

おなかがすいたという坂井くんのためにたっぷりのお湯を沸かしてスパゲテ ィーを作っているあいだ、彼はというとのんびり私の漫画を読んでいた。い つもは感想を聞いても「あえて何も言わへん」なんて言われるのに、今日は めずらしく「ん、うまい」と言ってくれた。「ほんと?コックさんになれる かな」というと「言いすぎ。」と笑われてしまった。

いつもみたくテレビを見て、好きな音楽をかけて、ふたりでひざ掛けの取り 合いっこして、笑って。そんなとき、「ひとつ質問していい?」と坂井くん が改まって言うのでどきりとしてしまった。いいよと言ってもなかなか口に 出そうとしないので何だか恥ずかしくなってしまった。何だろう、何となく 坂井くんが緊張しているのがわかった。テレビの音さえぼやけてしまうほど の沈黙のあと、「まだ、好きなん?」と訊かれた。

質問の意味はすぐにわかったけれど照れ隠しで「何がよ」なんて言ってしま って、よけいに恥ずかしくなってしまった。毛布にすっかり包まってしまっ た坂井くんをぽんっと叩きながら、「うち、諦めすごい悪いほう、やけん」 と言った。顔がかあと熱くなって、恥ずかしかった。今度は私が毛布に包ま っていると、坂井くんがゆっくりと話し出してくれた。

「ずっとほんま毎日メールくれてたやん。告白されて、その、振ってからも。 それからだんだん意識したっていうか、気になったっていうか、うん。年末 あたりかな。好き、なんかなって思て。なにしてるんかな、とか。俺バイト とかで忙しいしなかなか会ったりできないかもしれんけど、うまく言えんけ ど、付き合ってほしい、です。」

涙が止まらなくなった。ずっとずっと友達のままだと思ってたから。友達の ままでも幸せだ、と思ってたから。振られても気まずくならないでいてくれ たことだけで嬉しかったから。だけど、その言葉がとっても嬉しくて、幸せ だって思った。夢なのかもって思った。涙が止まらないでいたら、坂井くん がふはって笑いながら親指で涙を拭ってくれた。

ぎゅうってされたのも、手を重ね合わせたのも、何もかも初めてだった。震 えてばかりいると「顔真っ赤やで。熱い!」と坂井くんが笑ってた。顔がう んと近くにあるのが恥ずかしくてしょうがなくて、目を逸らしてばかりいた ら「照れすぎ」と言われた。初めてのキスは、大好きな人の腕の中だった。

ずっとずっと言いたくてしょうがなかった好きという言葉は、何度言っても 足りないように思った。だけど、「うん、俺も」というひとことは何だかと てもすごいパワーを持っていて、ふはあと顔が熱くなるのがわかった。ぎゅ うとしているだけでとっても温かくて、幸せってこのことなのかな、と思っ た。

いちがつむいか、もくようび。大切な大切な日になった。坂井くんが、好きだよ。

1月6日(木) 曇り

 

突然ふたりともバイトが休みになったから、とたんちゃんとふたりでガスト に行くことにした。お店の入り口にたんちゃんが見えたのでぱたぱたと走っ て行ったら「そんなに急がんでも」と笑われた。デートの待ち合わせみたい だと笑った。以前からお互いの恋愛相談について語ろうと言っていたのにな かなか時間が合わなかったから、だから突然の約束がとても嬉しかった。

たんちゃんは私よりもひとつ年上で、お兄ちゃんみたいな人。私がバイトを 始めたころから教育係だとか何とかいう役職で仕事のアドバイスをくれてい た。だけど話す機会が多いからかたんちゃんの持ち前の優しさからか、恋愛 のこともたくさん相談にのってもらってた。いつも休憩所だとか従業員の通 路のとこでこそこそ話だったから、こうしてゆっくり話すのは何だか不思議 に感じた。

なんとなくは気づいていたけど、幸せいっぱいのお話をとろけんばかりの笑 顔で話してくれて、私まで幸せになった。いつも「いけやん以外には誰にも 言うてないんやけどな」と話し始めてくれること、実はとっても嬉しかった りするんだよ。そしていつも思うのが、たんちゃんにとても大切に大切に想 われている彼女さんはとてもとても幸せなんだろうなあ、ということ。

日常に溢れていて見逃してしまいそうな小さな幸せも、ちゃんと大切に大切 に感じているんだなぁと思った。たとえば、成人式で着る振袖姿の写メ送っ てくれたんだ、とにこにこと携帯を見せてくるところとか。月に4回は一緒に どこかお気に入りの店見つけて外食するねん、とそうっと教えてくれるとこ だとか。

私が坂井くんとのんびり家でお話するのが好きなのみたく、たんちゃんも彼 女さんの家でのんびりするのが好きみたい。私と坂井くんはただの友達で、 たんちゃんと彼女さんは恋人同士で、だけどたんちゃんは言葉の違いなだけ で付き合うということも友達という関係も似てるよ、と笑ってた。何だかそ の言葉がとってもあたたかく感じた。

*

いまなにしよるん?

− 家でゆっくるしよるよ☆どしたん?

聞いてみただけ

− 気になるん?笑

もう(>_<)

− 照れてるん?笑

坂井くんとのメールはいつもひとことずつで、いつも私の気持ちなんてすっ かり見透かされているみたいだ。だけどちゃんと最後に約束できた。恋人だ なんて甘い響きの言葉はいらないから、ずっとずっと小さな約束ができたら それで幸せだよ。

1月5日(水) 晴れ

 

会えないとわかっていたけど、ほんの少しも期待していなかったといえば嘘 になる。小さなファミレスだとか、古びた駅から伸びる細い道、ため池の上 を走ってきたひんやりとした風。そのひとつひとつがまったく変わっていな いから、あのときの私自身もぱたぱたとどこか近くを歩いていそうだ。同じ 星空の下、同じ街にいることはわかっているけど、会いたいと言えなかった。

年末の三日間、知り合いのおじちゃんがいるお餅屋さんでアルバイトをし た。知り合いといっても親戚ではなくて、ほんとに顔を知っているだけなの だけど。朝から夕方過ぎまでエプロン真っ白にしてお餅を作ったり売ったり した。田舎だから昔ながらの仕来りを大切にしている家族が多くて、お客さ んのおばあさんに伝統を教わることもあった。何だかあったかかった。

おいちゃん(おじちゃんのこと)は天然でおもしろいから、一緒に働いてい るお兄さんたちもみんなおいちゃんのことが大好きみたいだった。三日間だ けだったけど、一緒にいれてよかった。高校生の女の子ふたりもバイトに来 ていて、何だか若いと思ってしまった。つい最近まで私も高校生だったのに なあ。ふたりとはまたどこか別の形でも仲良しさんになりたい。

*

実は家族で過ごすお正月は10年ぶりくらいだったので、何だか嬉しい。いつ もは仕事の都合でお母さんだけが香川に残って、父と妹と私は新潟の祖父に 会いに行ったり旅行に行っていたから、お正月らしいお正月を過ごしたこと がなかった。だからみんなでお雑煮や御節を囲んで食べるのが何だか嬉しく て照れくさかった。家族でゆっくりできる時間はやっぱり大切。

*

日記を書き始めて四年目になりました。今年も勉強に部活に恋愛にアルバイ トに精一杯努力をして、自分らしく健康に過ごしたいです。日々の一部分で しかないけど、またこうして日記に書けていけたらなぁと思います。今年も よろしくお願いします。

2005年1月2日(日) 晴れ

 

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