ぽかぽかぽかと音をたてて日々が春の真ん中に向かっているようで、空を見 上げても澄んだ空がどこまでもどこまでも広がっていて、そして少しピント を手前に合わすだけで大好きな淡い色が目に飛び込んできて。だから大好き なんだよなあって、春の真ん中で深呼吸をした。すう、はあ、すう。

愛しいなあ、と思う人と恋人同士になった。春なのに、少し肌寒い時間だっ た。小さな公園で、眠たいなあって肩にもたれてきたから私も肩に頭をのせ た。手を繋いで、ぎゅうってしてくれて、頬と頬が触れて温かかった。恋人 同士みたいやあって笑ったあと、「付き合おうか」と言ってくれた。照れく さくてすぐに返事はできなかったけど、思ったよりも大きくて温かい腕の中 でうんって笑った。

彼とは去年の春から仲良しで、どこか弟みたく思ってた。人懐っこくて笑顔 がとびきり可愛いひと。秋に一度告白をしてくれて、だけどそのときは坂井 くんを好きだったからごめんなさいを言った。近すぎて大切すぎて、ずっと 友達のままがいいと思ってた。何度も気まずくなったし、話をしない日々が 続いたこともあった。

だけどずっとずっといつも待っててくれた。私が坂井くんと付き合っている 間も、悩んでいるとすぐに気づいてくれた。相談がいつのまにかおしゃべり になって、彼と会う時間がいつのまにか当たり前になってた。毎晩バイトが 終わったあと、ガストでお話するのが当たり前になってた。

頭を撫でてくれるようになって、手をぎゅうと握ってくれるようになって、 傍にいる時間がだんだんと増えていくのがわかった。ただ近く、じゃなくて 傍に。こうやってだんだんと人は誰かに惹かれていくんだなあって、思った。 だから公園で隣り合わせに座ったときも、ぎゅうとしてくれることにどきど きはしたけど、驚かなかった。愛しいなあ、と思った。

かさかさの指先も低い鼻も、ぜんぶ包んでくれてありがとう。手の繋ぎ方だ とかキスの仕方、ひとつひとつが不器用だけど君にならそんなところ見せて も大丈夫かなあって思うよ。くさすぎる言葉も弱いところも全部、君になら ぶつけられるよ。少し大きな肩にぎゅうって頬を寄せながら、心地よさに口 元が緩んだよ。

4月17日(日) 晴れ

 

胸いっぱいに吸い込む空気がぽかぽかと暖かくて、バスの中ではうとうとと 眠たくなってしまって、道端に広がる桜の花びらに思わず頬が緩んだ。大好 きな春はいろんなところでみつかる。おはようございます、と声をかけてく れる後輩の子の目はきらきらとしていて、ああいいなあ、と思った。

気がつけばいつも学校にいて、部活の勧誘だとかチューターの話し合いだと か新入生とのクラスミーティングだとか。自分のために使う時間がほとんど なくてストレスばかりたまっていたのだけど、少し立ち止まって小さな春を みつけることでだいぶん気持ちが違うなあ、と思った。一休みして、またゆ っくりがんばろう。

午後の勧誘は休みにしようと先輩が言ってくれて、思わずやったあと喜んで しまった。ぽかんと空いてしまったバイトまでの時間をどうしよう、と思っ ていたらどうやらあのひとも暇してたみたいだった。いつもの待ち合わせ場 所まで、いつものようにのんびり歩いた。いつもわたしが待たせてしまうか ら、たまには早めに着くように行こうかなあなんて考えてみたり。

禁煙席にまっすぐ向かって、ふはあと大きく息を吐いて座った。ドリンクバ ーのジュースを入れに行くときは必ずふたり一緒に席を立つことだとか、ポ テトは特別にマヨネーズを添えてもらうこと。最後はデザートを食べること。 ひとつひとつが当たり前になっていくのがくすぐったくて、楽しいなあと思 った。いつからこれが当たり前、になったんだろうね。

頼りなくて子どもっぽくて弟みたいな君は私の好きなタイプとはうんと違っ ているのに、どうして一緒にいることがこんなにも心地いいのかなあなんて やっぱり不思議だよ。帰ろうかなあと時計を見ると、必ず「やだ」とひとこ と言ってくれる。私が君を必要としているように、君も私を必要としてくれ ているのかなあ。

ときどき原付の後ろに乗せてくれる、そのときだけ何だかすごくすごく私が 子どもになったみたく思えてしまう。思ったよりも広い肩幅だとか、頼れる なあって感じるよ。君と出会って一年。まだずきずきと前の恋を引きずって ばかりいるけれど、君のおかげで大丈夫かなあって思える時間が長くなった のが分かるよ。この気持ちも一時的なものかもしれないから、消えてしまわ ないうちにちゃんと書き残すことにしました。

大好きだったひとや、大切なひとの前で、きちんと胸を張れるように。大好 きな春の真ん中でため息ばかりついてたらもったいないね。

4月9日(金) 晴れ

 

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