針のように感じる雨上がりの日差しは眩しくて、あのひとのいないグラウン ドはいつもよりもどこか静かで、いま、が当たり前になりませんように、と そうっと願った。私の中でも、みんなの中でも。泣きそうな顔してましたね と一回生の部員くんに言われて、慌てて首を振った。こんなときに限って雲 の隙間から真っ直ぐに夕日が線を描いていて、きれいすぎて少しだけくやし かった。

入試のときよりも倍率が高くて、難関と言われていた人気のゼミに合格し た。面識のない先生だったから覚えてもらえるように何度も研究室を訪問し たし、志願書も何度も書き直した。努力した結果が報われることはとても嬉 しいこと。大好きな久美ちゃんと揃って合格できたこともとても嬉しい。理 絵ちゃんが部活のあとに合格祝い、と缶コーヒーをくれた。こういうの何だ か久しぶりでくすぐったかった。合格、かあ。

この間のっちが家に来てくれたとき、肉じゃがを作ってあげたらむちゃくち ゃ喜ばれてしまった。いつも10分もあれば簡単に作れるようなものばかりだ ったから、たまには、ね。ふたりで「いま、会いにゆきます。」のDVDを見て ずるずると鼻をすすって、目を合わせてよかったねえと笑った。ときどきだ けど私のことを名前で呼んでくれることが多くなって、少しだけどきどき。 私も呼び慣れたあだ名じゃなくて名前で呼ぶときが来るのかなあ。

少しだけ早起きして、すうと寝息をたてているのっちの横でそうっと伸びを した。少しも照れずに大好きだあととびきりの笑顔をくれて、ぎゅうと包ん でくれて、真っ直ぐに愛してくれるひとはきっとこれからもずっとのっちし かいないだろうなあなんて心の底から思う。私、しあわせだよ。ぎゅうって いつものっちがしてくれるみたく抱きついたら、とろんと溶けそうな声でお はようと言ってくれた。

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曖昧な形で別れてしまった坂井くんとは、とても良い友達に戻ることができ ました。あれだけ傷ついてよく許せるね、なんて友達には度々言われるけど それでも信じていてよかった。信じていてくれてよかった。もう白い軽自動 車を見ても一際大きな音を立てる原付を見ても目で追わなくなったよ。私、 幸せになるけんね。見守っててね。

6月16日(木) 雨のち曇り

 

久しぶりの曇り空の理由は、手帳の新しいページに栞を挟んだときに気がつ いた。お気に入りの傘はきゅうと括って椅子の下に。週に何度か一人で受け る授業があるのだけど、そのときは決まって手帳に日記を書くことにしてい る。部活にアルバイトにゼミの申し込みに、といつもばたばたしているか ら、大切な大切な自分だけの時間。

小雨の中、いつもと違うメニューで練習が始まった。練習つらいなあなんて よく同じ学年の部員さんからは弱音を聞くのだけど、それでも毎日こうして 走り込んでいる姿を見ているからずっとずっと見守りたくなる。ボトルを手 渡すとき、ありがとっと聞き慣れた声。去年の今頃は君のこと、こんなに好 きになるなんて思ってなかったよ。坂を上りきる背中に少し見入ってしまっ て、だめだめ、と慌てて逸らした。

練習が終わったあと、校内のいつもの場所で待ち合わせた。手を繋いで、き ょろきょろと周りを見て、目を合わせて笑った。閉じた傘をふたりして引き 摺ったり芝生の上にぱふぱふと先を押し付けてみたりしながら駅まで歩く。 とっても温かい雰囲気のレストランの窓際の席に座った。向かい合わせに少 し照れたりしながら手作りのメニューを開いた。

一緒にいることが自然になって、どきどきと心地よさが同じくらいになっ た。それはきっととても幸せなことで、向かい合わせにいる彼もきっと同じ ように思ってくれていることがわかる。(自惚れかもしれないけれど)バイ バイと手を振って別れたあと、少し間を置いて振り返ってみたら彼も同じタ イミングで振り返ってくれていた。くすくすと笑ってもう一度手を振った。

6月2日(木) 雨

 

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