バス停までの坂道。緑が眩しくて、乾いた土の匂いが広がっている。大好き な曲を何度もリピート。きっとずっと先にこの曲を聴いたら、きょうのこと を思い出すのかな。教習の予約をしていた時間まで随分とあったので、パン を齧りつついつもとは逆の歩道へ。ずう、と歩道が続いていて、空の青さを 一層引き立たせていた。どうして今までこの場所に気付かなかったのだろう。

のんびりのちとお買いもの。「少しは俺に関心持ってくれよ」と笑われるほ ど、可愛い雑貨を見つけては走り回っていたみたい。ひとめ惚れしたリュッ クを背負っては可愛いか訊ねていたのだけれど、のちは手に持った私のリュ ックとそれを見比べて「いま持ってるやつと色合いが違うだけやん」と大笑 いしていた。色合いが違うからこそ、また欲しくなるんだけどなあ。

椅子に並んで座って、隣で大きな荷物を一生懸命に抱きしめている男の子を 見ながら可愛いねってくすくすと笑った。「自分の子どもには絶対野球させ るなあ。習い事はさせんで、のびのび育てる」なんて言っていたので、「女 の子だったら絶対いっしょにお買い物行くなあ」って笑った。「俺ぜったい いいパパになる自信あるんやけど。おすすめやで」とのちが隣で笑ってい て、少し照れくさかった。

帰りに駅の隅っこのどんぶり屋さんで向かい合わせに座っていたら、「きょ う何度かさやちゃんのこと可愛いなあって思う瞬間があったよ」とのちが笑 っていた。「瞬間?すこしやんかあ」と皮肉ぽく脹れてみたのだけど、嬉し かった。「雑貨とか時計とか服とか、これ好きそうだなあってわかるように なったよ」と言ってくれた。のちはとてもとても優しく笑うひとだ。

*

家に帰ってから、お気に入りのリュックに麻でできたレースを縁取るように 縫い付けていった。お店に並んでいたリュックは本当に可愛くて欲しくてし ょうがなかったけど、ずっと愛用しているこのリュックも愛着たっぷりだか ら。「お昼選んでたリュックの横にこれがあったら、こっち選ぶかもしれん なあ」と言うと、またのちが後ろでくすくす笑ってた。

8月28日(土) 晴れ

 

こうしてのちと駅で待ち合わすのはきっと初めてだ。改札越しに目が合って、 少し日に焼けた頬が、にい、と緩んでいた。ひさしぶり、と言ったまますっ かり目を逸らしてしまう私の頬に、冷たいお茶の缶をひやりと押し当ててき た。「久しぶりで緊張してるんか?」とのちが笑っていた。違うよ、なんて 意地を張ってしまったけれど、たぶんきっと正解だ。

一年と少し前まで住んでいた町なのに、ひとつ駅を降り間違えてしまった。 一駅分歩くことになったのだけれど、ぎゅうと右手を握ってくれて、曖昧な 私のガイドにけらけらと笑いながら着いてきてくれた。大通りを離れて少し 静かな路地裏に来たときに、ひさしぶり、と言いながら優しくキスをくれ た。私がずっと住んでいた町に、のちがいるのって何だか不思議で、何だか とっても素敵だなあと思った。

*

ドアの重さ、広い玄関、独特の匂い。何ひとつ変わっていなくて、ただ机が こんなに小さかったっけ、と少し違和感を覚えたくらいだ。私はこの席だっ た、と言うとカズくんは「俺はいつもここだった」と、きい、と椅子を鳴ら して座っていた。向かいに座るあのひとに、私は毎週、小さな恋をしていた んだっけ。何ひとつ、変わっていなかった。

先生の目尻には、少し深い皺ができていた。背も、いつのまにかうんと超し ていた。10年も経ったのよ、と先生は笑っていた。10年経っても、愛しいな あと振り返られる思い出があること。それを共有した仲間がいること。英会 話教室での日々のことはよく思い出してはいたけれど、教室に入ると忘れか けていたことも心の中に飛び込んでくる。つらくはないのに、少し苦しく なった。

帰り道、自転車を押して歩きながらカズくんは「そういや中学のときも一度 だけこうして並んで帰ったよね」と振り返って笑顔をくれた。もううんと前 のことなのに、ふわっとそのときの私に戻ることができる。時って不思議だ なあと思った。いま、もこうして振り返るときが来るんだろうなあ。

*

にこ、ととっても愛くるしい笑顔。神戸へ向かうバスで隣り合わせになった のは、外国人の女の子だった。「Hello,」と電話に出たかと思ったら、「あ ぁ、ごめんごめん」と流れるような日本語で話し始めていた。驚きを隠せな いまま小説に目を落としていると、いつのまにか女の子はすやすやと寝息を 立てていた。可愛いなあ、と思った。こんな小さな出会いでさえも何だか大 切に思えてしまう。

*

付き合うことでお互いがプラスになれること。それはとっても素敵なこと。 部屋に来るなりぐうたらと布団にくるまるのちに少し腹を立ててしまった。 読んだ本の感想を言ってものちは本が嫌いだし、バイトもしていないし、た だのおしゃべりじゃなくてもっと意味のあるおしゃべりがいいの!なんてぐ るぐると不満をこれでもかとばかりにぶつけていたら(ごめんねのち)、「 交換日記買いに行こかあ」とのちが手を差し出してくれた。

お互いが会っていない間に考えたこと、読んだ本のこと、ニュースのこと、 お互いの好きなところ、手紙、思い出、悩み事、何でも書くことにした。相 手の知恵や知識、考えを情報として受け入れることで自分の中の知恵になる。 いつだか授業で学んだ、知識共有のこと。ただの甘い交換日記ではなくて、 少し大人の交換日記。

ふたりでこれだ、と決めたのは水色の表紙の小さなノート。のちがさっそく 落書きしていた。ただ付き合うことはどんな恋人同士でもできること。私た ちにしかできないこと、見つけられたらいいね。お互いを伸ばすことができ ますように。一ページ目は私が担当。何だかこういうのって、久しぶりだ。

8月22日(月) 晴れ

 

大好きなひとといるときの女の子の笑顔はとても可愛くて、幸せなんだなあ と言葉にしなくても伝わってくる。改札口を挟んで由佳ちゃんとおしゃべ り。もうすぐしたらあいつが来るねん、と時計を見たあと、後ろを振り返っ ていた。来た、という言葉よりも先に、彼が来たことがわかった。ずっとず っとそのとびきりの笑顔でいてね。

お気に入りの本を見つけたときは、我慢できずに帰りのバスの中で封を開け てしまう。イヤホンから流れる聴きなれた音楽も、見慣れた窓の外の景色で さえも、きらきらと。ドラマや映画が素敵に感じる理由のひとつは、場面場 面にぴったりと合った音楽が流れることだと思う。またひとつ、大好きな本 に出会うことができた。

担当していた座敷席のお客さんがレジのところで待っているよ、と教えても らった。仕事が落ち着いたのでレジに行くと、「接客がとてもよかったです。 また来ますぜったい」と、直接伝えるために待っていてくれたみたい。同じ ホール担当のバイト先のひとににぱちぱち、と拍手をされた。驚いてしまっ てすぐに何も言葉を返すことができなかった。ひとことひとことに元気付け られる。接客ってやっぱり好きだなあ。

バイトが終わったあと、デシャップにそば飯がふたつ。店長からだった。以 前は何をするにもお金を取られていたのに、なあ。もう一度店長のところに 戻って「ありがとうございます。いただきます」というと、「百円ね!」と 笑っていた。誰かの優しさに触れると、心がすうと温かくなる。軽くなる。 忙しかったぶんだけ、きちんと仕事をした分だけ、ご飯がとっても温かい。

*

最近は夜更かし続きで起きるのがいつもお昼ころだったのだけれど、今日 は7時に起きました。久しぶりではないけれど、いまから香川へ帰ります。久 しぶりなのは3泊することと、香川でのちに会うこと。晴れてよかった。

8月18日(木) 晴れ

 

鳴り止まない目覚まし時計。「このおと聞き飽きちゃったよ」なんて言いな がら止めるのはいつものちだった。ぼうっとする意識の中で、ぶつ、と自然 に鳴り止んだのがわかった。寂しくなんかないよ、なんて電話では笑ったけ れど、こうしたふとした瞬間に、少しだけ寂しくなる。手帳の中の笑ったの ちの写真を見て、会いたいなあと思った。

最後のお客さんが帰られるまでのあいだ、たんちゃんと折り紙。彼は将来、 自分のお店を持ちたいみたい。ただのアルバイトとして働いていたのに、仕 事の手際の良さや責任感を店長はもちろん本部の方も認めていて、社員にな らないかと直々にお話が来ているようだ。夢のための良い経験になるかなあ と笑ったたんちゃんは、きらきらとしていた。

夢を持ったひとや、自分らしさを持っているひと。出会うたびに刺激されて しまう。私も、これだ、と胸を張って言えるくらいの夢がある。あまり語っ たことはないけれど、きらきらと誰かの目に映るかなあ。もう少し大人にな った私が、胸を張っていられますように。

*

お盆はアルバイト先の居酒屋さんがとっても混むだろうと思って、休みを少 しずらして今週末に連休をもらいました。日帰りではなく香川へ帰るのはき っとお正月以来だ。(といっても二日くらいでまた神戸に戻るのだけれど。) 高松で、のちとほんの少し会うことになりました。どうやら彼は愛媛のおじ いさんの家に遊びに行っているみたいなので。私の大好きな町を案内するけ んね。

8月14日(日) 曇り

 

目に見たもの全てがビデオになって残しておけたらいいのに、なんて思った ことがあった。絶対に忘れないだろうなあと思っていたおととしの花火も、 うっすらとぼやけてしまった。あの日からちょうど2年。携帯のディスプレ イに映った今日の日付に、きゅう、となった。くすぐったい、温かい思い出。

教習のあと、アルバイト先の仲良し4人で飲茶&しゃぶしゃぶの食べ放題に。 いつもは夜中に会っているから、こうしてお昼に街中でのんびりと歩くこと が何だかおかしくてみんなでずっと笑ってた。目的はそれぞれ違っても、働 く、という共通の意識みたいなものがみんな一緒だから、自然と打ち解け合 えるんだろうなあ。

名札の裏に、プリクラがもうひとつ増えた。ひとつ目は、去年の夏に同じよ うにアルバイト先の先輩たちと撮ったもの。あのときのメンバーから一緒な のは、同期の枝ちゃんだけだ。先輩からもらった温かい言葉だとか、楽しい 空間だとか、崩さずに伝えていけたらなあと思う。それに加えて、何か私た ちらしさも残せたらいいなあ。がんばろうね枝ちゃん。

*

たんちゃんの彼女(みっち)は今日から一ヶ月間、イギリスに留学するみた い。バイト先のみんなで、「今日からたんちゃんグラスようけ割るなあ」だ とか、「八つ当たりしてくるで絶対!」なんて笑っていたのだけど、たんち ゃんの表情を見たらそれ以上笑えなくなってしまった。

「いけやんの彼氏が一ヶ月留学したらどうする?」と、箸袋をぱたぱたとさ せながら、どこか上の空のたんちゃん。のちが一ヶ月、かあ。一ヶ月に一度、 会えるか会えないかの片想いをしたことがあるから私は耐えられそうな気が するけれど、たんちゃんは男の人には珍しいほど一途だからなあ。

気持ちの面ではみっちでないと支えてあげることはできないけど、仕事の面 ではこの一ヶ月、たんちゃんをサポートできたらいいなあ。タイムカードの 退勤時間を押したあとだったけれど、箸袋に割り箸を入れているたんちゃん をほんの少しだけ手伝ってあげた。敵うはずのないたんちゃんの箸入れのス ピードに、今日はあっさり追いついてしまった。

*

のちと、些細なことでけんかをしてしまった。直接会って仲直りしようと言 いたいのだけど、のちは実家である京都にしばらくいるみたい。素直にごめ んだとか、意地張っているだけなことを伝えたいのだけど、なあ。こんなと きは、素直になれない分だけ手紙を書こう。

*

夕立のあとの、雨の匂い。土の匂い。黄色い、白い光。目に見たもの全てを 覚えておくことができる、なんて素敵なことは私にはできないので、こうし てその一部分を日記に綴っている。このときが、一番こころが穏やかになっ ている気がします。とくとくとく。

8月13日(土) 晴れときどき雨

 

とくとくと。同じ大学の友達と待ち合わせしているときとは幾分鼓動が速く なっていて、だけれどのちと会うときのようなどきどきでもなくて。私が高 校生のころから進路のことや恋愛のこと、何でも話せて相談にのってもらっ たりアドバイスをしてもらったり。年が近い上にいつもきらきらと日々を満 喫している彼女だからこそ、会いたくてしょうがなかった姉やんと の待ち合わせ。

ふわふわとしたスカートに、優しい黄色のカーディガン。視力は落ちている のだけど、遠くからでもすぐに姉やんだとわかったよ。勇気をふりしぼりき って話しかけました。照れくさすぎて上手く目を見て話せないでいたのだけ ど、姉やんはずっとにこにこして「大丈夫だよ〜!」なんて言ってくれて、 だんだんと緊張も解れていって(それでも緊張していたけど)よかった。

本当は三宮でたくさんお買い物、とも思ったのだけど、私のお気に入りのハ ーバーランド周辺へ行きました。がやがやとした繁華街よりも、おしゃれな 観光スポットやカフェがあって、のんびりお話できるほうがいいかなあと思 ったので。和風パスタをふたりで注文して、お箸で食べるのって不思議だね 、なんて言いながら食べました。しあわせ。

パスタを食べ終わったあとも席を立たずにずっとおしゃべり。こうやってひ とつのお店でのんびりとお話をすることが私はとっても好きなので、姉やん とのんびりお話できることが嬉しくてしょうがなかった。写真やプリクラ、 ひとつひとつの思い出を姉やんがとっても楽しそうに話すので、ひとつひと つを頭に思い浮かべながら聞きました。私ものちと映画の撮影が行われた観 光地だとかバスツアーしたいなあ、なんて思考はすっかりのっちになってし まったのだけれど。

日記を通じてこうして仲良しさんになれた。学校の友達よりも私の気持ちや 想いを知ってくれていて、今まで会ったことはなかったのにとてもとても近 く感じていたよ。「昔の日記って読み出すと止まらないよね。そのときの気 持ちもすぐに思い出せるんだよね」なんてふたりで笑った。日記を書いてい てよかったなあって、心から思えた。

隣のテーブルに座っていたお客さんが何度か入れ替わったあと、デザートに したりプリクラを撮りに行ったり。普段友達と何度も過ごしてきたことと同 じなのに、ふわふわと、とくとくと。私が高校生のころはきらきらと充実し た大学生活を送っている姉やんにとても憧れていて、私が大学生になったい まも、充実して毎日が楽しいよとにこにこと笑ってくれた姉やんに憧れてし まう。

落雷だとかで帰りはバタバタとしてしまったけれど、姉やんと会えてお話で きて本当に嬉しかったです。神戸まで会いに来てくれてありがとう。今度は 私が会いに行くけんね。もっともっと姉やんが大好きになりました。ふわふ わと、まだ夢の中にいるみたい。姉やんと撮ったプリクラを手帳に貼って、 本当だったんだって、改めて思ったよ。こうして日記を書きながら、思った よ。

だいすき姉やんのHP sparkling  

8月9日(火) 晴れ

 

緑で囲まれたずうっと続く歩道をのんびりと歩いた。教習の送迎バスが駅か ら出ていることは知っているけれど、まだ一度も使ったことはない。鈍った からだをしっかりと動かさないと。コンビニで買ったカフェオレを、冷たい うちにごくりと飲んだ。じりじりと暑いこんな朝は果汁たっぷりのジュース や炭酸飲料がぴったりだけれど、私はとろんと舌の上でとろけるカフェオレ が好き。

学科の授業のあと、本屋さんへ。浴衣の帯の結び方をふむふむと頭に入れた あと、腕時計を見ながらわくわく。待ち合わせ時間を電話で確認して、髪を ひとつに結ってくるくるとまとめて、そわそわ。姿見と睨めっこをして、初 めて浴衣から帯まで自分で着付けることができた。好きな人と、浴衣を着て 花火大会へ行くのは初めて。そわそわ、そわそわ、どきどき。

ドアを開けて、何だか照れくさくて笑ってしまった。似合うかな、と訊ねる と、ぎゅうとしながらのちは「どきどきする」と笑ってくれた。本当は大好 きな赤や桃色の浴衣を着ようと思ったのだけれど、以前からずっと大切にし ていた水色の浴衣。似合うよ、と言ってくれた。たぶんきっと、いまのひと ことでもっと大切になった。

花火会場へ行くまでのお店で、和風の模様で作られている蝶々の可愛い髪飾 りをのちが買ってくれた。レジでそのまま耳の少し上につけてみた。いつか ずっと憧れていたようなやりとりを、のちは私にプレゼントしてくれる。す ごく嬉しいなあ、温かいなあって。

どん、と夜の空に、心に響く打ち上げ花火。ひとつひとつにわあわあと歓声 をあげていたら、隣でのちが大笑いしていた。いつのまにか、写真を撮るの も忘れてずっとずっと見入っていた。すう、と昇っていく瞬間が好き。ぱあ と開く瞬間も好き。ひらひらと光の線を残してだんだんと消えていく瞬間も 、好き。少しずきんとしたのは、少しあのときのことを思い出してしまった から、なのかなあ。

*

思い出は上書きされることなく、どんどんと増えていくもの。あの日からも うすぐ二年が経つ。花火、に新しい素敵な思い出ができたよ。彼はいまどう しているのかなあ。大切なひとと、花火を見たのかなあ。

*

来年はちゃんとシートとか座布団とか持って来なくちゃだなあ、とのちが言 っていて、嬉しすぎた。来年もこうして隣に座って、夏の夜空を見上げよう ね。

8月6日(土) 晴れときどき雨

 

ペットボトルのお茶と梅のジュース。窓側がいい、と言うとくすくすと笑っ てのちが席を空けてくれた。書き忘れていた昨日の日記を手帳につけている あいだ、のちはぐっすりと眠っていた。窓の外には海が青く広がっていた。 空の色や海の色、右腕に触れるのちの温もり、ひとつひとつをゆっくりと感 じて、幸せだなあって。とくとくと、鼓動もとても心地よいみたいだ。

バイトが突然休みになったので、ずっと行きたいなあと思っていたオーサカキングに 行ってきました。こういうのはとことん楽しまないと、と入口でストラップ 付きのパスポート入れをふたりで購入。手を繋いで、スタンプ台をみつける 度に走り回って、夕立に大笑いしながら小さなテントの下に隠れて。傘なん て持って来てないよ、と言うと、ハプニングがあったほうがおもしろいなあ とのちが笑ってた。

久しぶりの外出で、おまけに肩を出していたりスカートだったからか、帰り の電車で冷房に負けてしまってすっかりお腹を壊してしまった。のちはずっ と心配してくれていて、何度も途中で駅を降りてくれた。手をぎゅうと握っ てくれて、強がらなくていいで少しでもつらい思うんだったら言うてなあっ て言ってくれた。

ずっとずっと傍にいてくれてありがとう。たびたび体調不良になるけれど、 その度に寝付くまで隣で頭を撫でてくれてありがとう。上手く伝えられない けど、すごくすごく大切に思っているよ。明日はバイトの休みが取れたから 、花火大会思いきり楽しもうね。

 オーサカ キーングッ

8月5日(金) 晴れときどき雨

 

ことこととお湯の沸くおと。だしの匂い、お味噌の匂い。火を消したあと、 溶いた卵を円を描くようにぐるりと。彼は私の作る料理のなかでお味噌汁が 一番おいしいと言ってくれる。空っぽの鍋にすうと水をはった。小さい頃、 おかわりをするたびに母が喜んでくれていた。そのときの気持ちが少しだけ 分かったような気がした。

*

去年の春から今日まで。ずっとずっと一緒に働いていた先輩が、最後の出勤 だった。くるくるの茶色い髪に、いつもたぽっと制服を少しずらしていた。 家の方向が唯一同じで、閉店後はふたり並んでいつも一緒に帰っていた。な かなか進まない恋のことや、甘い忘れられない恋のこと。そのひとつひとつ は鮮明に思い出せないけれど、でもいつもふたりできゃあきゃあと笑ってい た。

深夜2時過ぎの須磨で砂浜に寝そべって天体観測をしたり、台風が来るとテ レビが伝える中で六甲山にみんなでドライブに行ったり、たぶんきっと彼女 と出会わなければこんな体験できなかったと思う。「いけやんは私の妹やね ん〜!」といつもとびきりの笑顔で、とびきり可愛がってくれた。

神戸で一人暮らしを始めて一年と四ヶ月が経った。その中で大切なひととた くさん出会ったけれど、彼女もそのひとりだ。もらった手紙の中には、私が バイトを始めた頃のこと、毎日の帰り道のこと、仕事のこと、恋愛のこと。 忘れてしまっていたようなひとことまで書かれていた。

*

先月、のちと京都へ行ったときに彼の友達の高塚くんの家にお邪魔したのだ けれど、壁一面に手紙やふとしたときに書いたメモがぶわあと貼り付けられ てあった。そのひとつひとつはとてもくだらないものだったのに、それが重 なりあうことでとても心温まるものになっていた。そのときから、授業中に 久美ちゃんと悩みを書きあったルーズリーフや、部活仲間からの手紙、そし て今日もらったみたいな手紙を壁に貼り付けることにしている。

心が温まって、愛されるということを実感して、私もまたみんなにとって温 かい存在になりたいなあ、って。手紙を書くことからだんだんと離れていた けど、きっととても大切で素敵なことだ。いま、の気持ちを込めること。き っと時が経てば経つほど熟する実のように、もっと温かいものになるはず。

*

のちがそうっと目を開けて、ぱちりと目が合った。ずっと見てたのかあ、な んて目をうんと下げてくすくすと笑っていた。どんな会話よりも何よりも、 朝のこうしたときが好きだ。手帳がのちとのことで分厚くなっていくよ。も うすぐ四ヶ月。友達期間が長かった分だけそれはとても短いように感じるけ れど。感謝の気持ちと大好きを詰め込んで、また手紙を書こうかなあ。

8月2日(火) 晴れノチ曇り

 

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