久しぶりのデートが業務スーパーってどうなんやろなあ、と笑いながらのち は私の右手をとった。お互いの袖の部分が重なって、もうすぐ冬なんだなあ なんて思った。韓国のりって好きなんだ、とのちが当たり前に私の持ってい た買い物籠にそれを入れていた。そんな些細なことがくすぐったくて、嬉し くて。

目を合わせると、どした?ととびきりの笑顔。さっきまで聴いていた曲を口 ずさんでいたら、恥ずかしいからそんな大きな声で歌わないの、と怒られた のだけど、いつのまにかそれはのちの鼻歌にうつっていた。ときどきのちが 「もう俺ら結婚してるみたいやあ」と嬉しそうに笑うので、思わず私も頬が 緩んでしまう。結婚しても、こんなふうに手を繋いで鼻歌うたいながら買い 物へ行くのかなあ。

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式典や学年で集まる機会があるたび、好きなひとの背中を目で追っていたこ ろ。目が合った、なんてうめさんにひとつひとつ報告しては、喜んでいた。 そんな私に、ふと戻ったよう。高校時代の友達に会うと、そんな小さな甘酸 っぱいものまで味わえてしまう。うじけちゃんとは去年の夏以来の再会。久 しぶりなのにやりとりは何ひとつ変わっていなくて、それがどうしようもな く嬉しかった。

同窓会のあとは、あゆ美ちゃんとDEARというレストランへ。 誰かと一緒にいることの心地良さ、を初めて知ることができたのは彼女と知 り合ってからだ。ふたりでいると、一番自分らしくいられるように思う。高 校生のころとはまた違った悩みごとを相談し合ったり、思い出話に頬を染め たり。いつのまにかラストオーダーの時間を過ぎていて、思わず目を合わせ て笑った。ふたりでいると時間がうんと早く過ぎてしまうこと、変わってい なかったね。

同窓会では同じ高校出身の先輩である北川さんと も会うことができた。メールや掲示板では何度かお話したことがあったけ ど、直接会ったのは初めて。思っていたイメージ通りのひとだと言ってもら えて何だかすごく嬉しかったです。名札だけで気付いてくれてありがとうご ざいました。3期上の先輩だから在学中に出会うことはできなかったけど、 こうして知り合うことができて本当嬉しいです。

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ひととの繋がりが、とても温かく感じる。実家の玄関を開けたときの独特の 匂いや、聞きなれたはずなのに懐かしい目覚まし時計の音。そんな日常のふ とした場面も、温かい。今日は泊まらず帰るから久しぶりにゆっくり日記書 く時間にしい、とのち。一緒にいる時間も大切だけど、自分とゆっくり向き 合う時間も同じくらい大切に思っていること、のちは気付いてくれているみ たいだ。

小さな出来事や、ありふれた会話。雲のちぎれかた、心細い夜の過ごし方。 ひとつひとつを見逃すか意味のあるものにするかは、心持ち次第だというこ と。どんな些細なことでも、大切に想いたい。大学の授業で使われている掲 示板に「あなたのリラックス法は?」という記事があったのだけど、私の一 番のリラックス法は、こうして日記を書くこと、かもしれないなあ。この時 間、大切に大切にしたい。

10月26日(水) 晴れ

 

ふと思い出したんだけどさ、と言ったあと、やっぱり秘密にしとこ、と目を 閉じていた。すっかり目が覚めてしまった私は、いじわるせんで、と笑った。 「去年の秋ごろ、すぐそこのガストにバイトの面接行ったやんか。家から遠 いのに、友達と一緒に受けてん。実は、受かったらさやちゃんと同じ系統の バスに乗れるかなあとか思てたんで。学校から一緒に帰れるかなあ、とか。 まあ落ちたんやけどなあ」と、のち。

時間を越えたのちのあったかい想いは、とっても優しく響く。ときどきのち はこうして、まだ友達だったころの私への小さな想いを教えてくれる。ぎゅ う、としていた腕に少し力を込めた。「あのころ好きだった子と、いまでは こうやって一緒にいるんやもんなあ。しあわせだなって、ほんと思う。」と のちはまた私を赤くさせた。のちはほんとに、あったかいひと、だ。

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街灯よりも冷たくて、でも目を逸らせない強くて静かなひかり。思わず立ち 止まって、空を仰いだ。去年の今ごろも、こうしてバイトのあと夜空を見上 げて帰っていた。白い息に、言葉にならない想いを込めたりしていた。いま だったら月の絵を書くとき、黄色の色鉛筆を選ばないかもしれない。月はま あるく、空に浮かんでいた。

季節ごとに表情は変えるけれど、変わらないもの。私がうんとおばあさんに なったときも、秋のはじまりの夜にはこんなふうに白くてまあるい月が浮か んでいるのだと思う。そのとき私は、白い息にどんな想いを込めるのかなあ。 夜空を仰ぐたびに、あの日のことを思い出す。今日みたく、想いを込めた日 々を思い出す。

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これから高松です。am5:40!朝の6時にのちが電話で起こしてくれるはず だったけど、先に起きちゃった。電話に出たとき、いま起きたふりをしよう かなあ。なんてね。…行ってきます!

10月21日(金) 晴れ

 

ぽかぽかと、お昼の日差しはとても心地がいい。どこか教室に入っても良か ったけれど、パルちゃんと選んだのは中庭のベンチ。「いちばんの理解者か もしれないなあ、あきがいなかったら大学続いてなかったかも」と笑ったパ ルちゃんの表情はとても優しかった。私ものちのことを話すとき、こんな表 情をしているのかなあ。ふたり揃って頬張ったコンビニおにぎりは同じもの だった。パルちゃんとは、なぜだかとっても波長がぴったりだ。

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去年の春からのちの気持ちには何となく気付いていた。だから付き合うこと になったときも、「のっちほんとによかったなあ、やっと両思いになれて」 なんて言われていた。それほどずっと真っ直ぐに想ってくれていたから、だ からそんなのちの口から「もう特別に思えないかもしれない」と言われたと きは、ずん、と頭を殴られたようだった。声は、言葉は何も出てこないの に、涙が止まらなかった。

いつもドアを開けた瞬間に抱きしめてくれた玄関で、のちの胸に泣き顔をう ずめた。人前で泣かなくなった分だけ、こうして涙を流したときは苦しくて しょうがなくなる。「また、いつもみたいに大好きやあって言うてよ」って 駄々をこねるみたく、子どもみたいに泣いた。撫でてくれるのちの掌は大き くて温かくて、優しかった。

ドラマで囁かれたり、歌手が歌詞にしたりするように、大切なものは無くし てから気付くのだなあと思った。のちと受けるはずだった授業をひとりで受 けながら、しばらく止まったままだったのちとの交換日記に気持ちを綴っ た。素直になること、ずっと忘れてた。いつから意地張りになってたんだろ う。

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「プーさんと同じ格好して寝てるから、思わず可愛くて写真撮っちゃった よ」と、まだ眠たそうな声でのちは笑っていた。くしゅん、とくしゃみをし たあと、誰かさんが布団全部取ってるから、と言いながら洗面所へ向かうの ちの背中を見ながら、のちの隣にいる朝って好きだなあと思った。ぎゅう、 として、猫毛ののちの髪を少し逆立てた。

とん、と踵を慣らしたあと、ドアを勢いよく開けていた。玄関を出て見送ろ うとすると、隣の部屋からひとが出てくる気配がした。ふたりで小さな声で 笑いながら、また学校でね、と手を振った。ドアの向こうで、原付の音が小 さくなっていった。

日々に溶け込んでいる毎日はとても温かくて、でもふとした瞬間に壊れてし まうとても繊細なもの。揃いのグラスについた泡をたっぷりの水で濯ぎなが ら、いま、を大切にしたいと思った。強く強く思った。

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半年記念日に、のちがペアリングをプレゼントしてくれました。指輪をする のは生まれて初めてで(おもちゃはあるけど)、のちも初めてみたい。手を 繋いだときにある、小さな嬉しい違和感がとってもくすぐったい。細い二つ の輪が重なっている、とってもシンプルだけどきれいな指輪。大切に大切に するね。

10月17日(月) 晴れ

 

ふわ、と鼻をくすぐる香り。季節を感じる香りはさまざまな場面で出会うけ れど、金木犀の香りはきっとそのなかでも特別だ。甘酸っぱい思い出まで一 緒に、すうっとからだ中に染み渡る香り。好きだなあ、というと「小さいこ ろままごとしたなあ。金木犀集めて、ごはん〜って」と、千紗ちゃんが笑っ ていた。「両手いっぱい集めたけど、ごはんには例えんかったなあ」と私も 笑った。笑ったらまた、鼻の奥まで香りが届いた。

芝生の緑がやさしい。木で作られたベンチに、のちと向かい合わせで座った。 もうすぐ半年なんだね、と言うと、早いなあと笑っていた。すくっと立ち上 がって、何も言わずにのちの隣に座りなおしてみた。どした?ってのちが笑 ったので、素直になってみた、と言った。校舎の窓から由佳ちゃんが「ごっ ちぃ」と私を呼んだので、慌てて少し離れた。由佳ちゃんも彼とこれからお 昼みたい。

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こんな書きかけの日記が、とても眩しくて、ぎゅうとなった。いつかもらっ たのちからの手紙が、最後まで読めなかった。タオル越しのキスは温かくて、 もう最後なのかなあって思うと涙が止まらなかった。好きなのに離れること のつらさはこれまでもうんと経験してきたけれど、たぶんきっといまみたく こんなに苦しくならなかった。

おはようを言う前に、のちに言った今日見た夢のおはなし。どんな思いで聞 いていたのかなあ。ほんとうになるなんて、私は思っていなかった。くしゃ みをした私を、風邪ひいちゃだめだからってぎゅうとしながら肩まで布団を かけてくれた。あのとき、どんなこと思っていたのかなあ。

今日の今ごろは助手席にのちを乗せて、慣れない運転だけれど明石のほうま で行くんだって思っていた。外は雨で、大好きな金木犀の香りはどこかへ行 ってしまった。上手く言葉が書けないよ。手帳の日記も止まったまま。目尻 をうんと下げて、さやちゃんってまたぎゅうってしてほしい。幸せだなあっ て目を閉じて、ずっと傍で笑っていてほしいよ。

10月10日(月) 雨

 

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