視界がぼやけてしまうのは、声色がとても心地良かったからなのかなあ。体 調を崩して点滴まですることになってすっかりへとへとだったのだけど、母 が"いい夫婦"の日にも関わらず、香川からバスで来てくれた。小さい頃から 風邪をひくたびにこうしておじやを作ってもらった気がする。温かいなあ、 なんて言いながら口に運んでいると、食欲あるみたいで安心したよ、と笑っ ていた。母のくすくすと笑う声は、やっぱり何だか心地が良い。

バスタオルを取り込んで、ふわっと空気を包んで畳んだ。横になってテレビ を見ていたのちが、一緒に暮らすのっていいかもしれないなあ、なんて笑っ ていた。あまりにも突然だったけれど、とっても嬉しいひとこと。さやちゃ んだったら絶対にいいお母さんになるよ、と言われた。バスタオルの畳みか たは、母譲り。いつのまにか、わたしのもの、にもなってた。

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黄色い銀杏の葉が舞っていた。かさかさとした印象を抱いていたけど、枝か ら放れたばかりの葉はしっとりとしていた。いくつか手にとってひとつひと つ重ねていくと、黄色い花みたいになった。街には赤や緑が溢れているけど、 家の近くの歩道は一面黄色の絨毯。色を感じること、季節を感じること。私 のとっておきの、リラックス法だ。

のちは私のバイトが終わったころに必ず玄関のベルを鳴らしてくれる。ぎゅ う、とすると、ふんわりと外の冷たい空気を含んだのちの髪の匂いがした。 きょうは何も買ってきてないよ、と意地悪そうに笑っていた。いいよいいよ、 と言うとドアの陰からひとつの袋。「スタミナ不足なさやちゃんに、豚丼買 って来ました」と、のち。

ふたりいつも忙しいのにゆっくりデートする時間はあるの?と、よく訊かれ るのだけれど、たぶんみんなが思っているよりもうんと長い時間ふたりで過 ごしているように思う。だからこそのちの優しさだとか温かさにすっかり馴 染んでしまっているから、改めてこうして文字にすることがすこしだけくす ぐったい。

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最近の悩みごとは、締め切り間近のレポートのことと、プレゼントの隠し場 所のこと、かなあ。早めに執りかかろうといつも思うのに、レポート作成は いつも焦ってしまう。心と時間にゆとりを持ちたいなあ。

11月27日(日) 曇り

 

玄関を開けると白い息をふわあとさせながら『いまから温泉行こかあ』との ちが笑っていた。バイトの連勤でくたくたになっていて、授業を丸一日分出 ずに寝込んでいた日の夜のこと。近所にあるけど歩いていくのには遠くてな かなか行けなかった温泉。ライトを付けて、買ったばかりのふあふあのクッ ションに深く座って。車があるって、こういうとき素敵だね。

一時間後にロビーで待ち合わせをして、手を振った。うーんと伸びをして、 ぷくぷくと頬までお風呂に漬かってみた。水のおと、泡が膨らむおと、バケ ツが床に落ちるおと。空を仰ぐと、小さな星がいくつも見えた。ふと視線を 戻してみて、星が小さく見えたのは白い白い湯気が絶え間なく昇っているか らなのかなあ、なんて思った。

こういうのはとことん楽しまないと、とふたりで瓶に入ったコーヒー牛乳を 飲んだ。髪の先がふたり濡れていて、だけど体はほかほか温かくて。椅子に 体育座りをしてのちの肩に頬を寄せた。いつか憧れていた友達カップルが、 修学旅行のお風呂上りにこうしてふたり肩を寄せていたのを思い出した。と てもとても幸せなこと、だね。

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『仲がいい子はたくさんいるけど、こうして将来のこととか今すべきこと、 自分の根の部分とかを真剣に語れるのは、ごっちが一番だなあって思うよ』 と、あゆちんが真っ直ぐに言ってくれたので、心の底から嬉しいなあ、と思 った。学校では普段お互いに別の友達と一緒にいることが多いのだけど、や っと同じ日にバイトが休めたので久しぶりにふたりでお出かけすることに。

お互い雑貨屋さんが大好きで、カフェやパスタ屋さんを見つけるのが大好き で、そして何よりもおしゃべりするのが大好きで。おしゃべりといっても、 他愛ないことだけではなくて、将来のことを真剣に話すことのほうが多いく らい。今日はほんとうにありがと、ととびきりの笑顔をもらった。私も心の 底からありがとうって思ったよ。

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ゼミの先生が行うプレゼンだとか授業は他の先生よりも少し秀でていて、こ のゼミでほんとによかったねえ、とパルちゃんと笑った。ゼミのみんなで居 酒屋さんへ行ったあと二次会のボウリングへ向かうとき、パルちゃんと宮下 くんと『遊ぶときはとことん遊んで授業は真面目に受けるっていう、そうい うちゃっかりした人がこのゼミには多いね』って話した。後期から始まった ばかりだけど、大切な仲間と出会えたなあって思うよ。

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一緒になって遊んで騒いで勉強も研究もできる仲間がいて、悩み事も将来の ことも心から語れる友達がいて、苦しくなるくらいの強さで抱きしめてくれ てずうっと傍にいてくれる恋人がいて。手帳はバイトとレポートの締切日で どんどんと埋まっていくけれど、日々のふとした隙間にこうしてみんなを想 って文字を書くとき、とっても幸せを感じるよ。

『さやちゃん見てたら俺も来年は真面目に手帳を使いこなそうかなあって思 えてくるんだよ』と、のち。手に取る手帳はシンプルなものではなくて、可 愛い犬の写真が表紙のもの。『なんでそんな可愛いの選ぶかなあ』とくすく す笑うと、『…最近すっかり影響されてるんやけど、きみに』と笑っていた。

繋いだ右手はぽかぽかと熱っていて、左手は感覚が少し鈍くなっていた。空 の色が優しくて、耳をすますと歩道を歩く人たちが奏でるブーツのおとが響 いていた。クリスマスプレゼント、ちょっと早くていいからジャンパーが欲 しいなあ、そしたらさやちゃん家に今まで以上に会いにいけるのになあ、と のちが駄々をこねていた。やだやだって笑いながら、それもいいなあなんて 思った。

のちが選ぶ来年の手帳に、私との予定がいっぱい書かれるといいなあ。季節 の移り変わりをのちの肩越しに感じて、白い息が、黄色い銀杏の葉が、優し い空の色が眩しいなあと思った。幸せだなあって、思ったよ。

11月20日(日) 晴れ

 

うお座の星座物語が紹介されたあと、その少し北東にあるおひつじ座の星座 物語が紹介された。「となり同士だね」と小さな声で言うと、「同じこと思 った」と隣にいたのちが笑ってた。ずっとずっと昔からこうして隣同士だっ たのかなあなんて、そんなことを思った。 デートでプラネタリウムっていいなあ、とのち。 何だか今日は大人なデートだねって、ふたりで笑った。

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お昼は駅の近くに行こうか、と学校を抜け出してのんびりと駅までの歩道を 歩いた。免許を取ってからずっと車に乗ってばかりいたから、こうしてゆっ くりと歩くのが久しぶりだった。赤、茶色、黄色。落ち葉の絨毯は歩くたび にかさかさと音を立てていた。隣で歩いた日々を指折り数えて、笑った。両 手が足りなくなるくらい、一緒にいられたらいいなあ。

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店長が作ってくれたおでんをほくほく。嬉しくてついつい全部の種類をお皿 に盛ってしまったから食べ終わるのが一番最後になってしまったのだけど、 ゆっくり食べてていいよ、と店長。帰りは必ず先輩の松浦さんが車で送って くれて、こんなに優しくしてもらっていいのかなあと思うのだけど、素直に 甘えることにしている。人の温かさに触れること。とてもとても、心地がい いなあ。

アルバイト先のシフトは丸だらけで、なんと今月は休みが三日間だけ。働き 過ぎで何かの法律にひっかかりそうな勢いだ。普通なら抗議をするのだろう けど、人数が足りないことだとかこれから年末にかけてお店が忙しいことは うんと実感している。バイト先のみんなそれぞれがお店のために、という意 識で働いているから、私もいつのまにかそんな意識を持つようになった。

バイトでゆっくりデートができない、と何度ものちとけんかの原因になった。 だけど私にとって働くことは欠かせないことだから、やっぱり大切なひとに は理解してほしいなあ。のちも新しいバイト先が決まったみたい。冬休みに たくさんお出かけできるように、今月はお互いがんばろうね。

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今週の水曜に、ゼミのグループ発表があった。プレゼンの評価をどうしても 個人的に知りたくて先生にメールをしたら、何でもすぐに復習しようとする 心がけがすばらしいですね、とコメントが添えられて返信があった。嬉しい なあ。大学で一番人気の先生のゼミに入れたこと、とっても誇りに思ってい ます。プレゼン能力、もっともっと身に付けられますように。

ゼミのみんなは何だかとっても刺激になる。ただテキストのまとめをプレゼ ンするのと、ちょこっと自分の考えを添えてプレゼンするのとではうんと魅 力が変わってくる。相変わらず緊張しいなところは治らないけど、だいぶ前 を向いて発言できるようになった。自分のものに、なりますように。

11月4日(金) 晴れ

 

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