きらきらとしたものを見ると、光に惹かれる夜の虫みたく思わず手が伸びて しまう。白い息をほわほわとさせながら大きなピザをのちとふたりで食べて いると、赤いマフラーをした少し年配のおばさんが、「こんなに寒い日はほ んとあったかいもの食べたくなるわね」と話しかけてくれた。旦那さんと思 われる男性がおばさんの食べ残したチーズをひとくちで食べていて、何だか それが私とのちのやりとりととっても似ているようで、思わずくすくすと笑 ってしまった。

ほんの少し話しただけなのに「それじゃあ」と言いながら、夫婦は別れ際に とびきりの笑顔で手を振ってくれた。何だかとっても嬉しくてふたりの後ろ 姿を人ごみで見えなくなるまで見ていたら、隣でのちがくすくす笑っていた。 ふたりで残りのピザを食べたあと、お店を見て回ろうかって、手を繋いだ。

昨日の電話でどこへ行こうか決めていたとき、このドイツ・クリスマスマー ケットを選んだのにはふたつの理由があった。ひとつはふたりが専攻してい る語学がドイツ語なことと、神戸から離れているから電車での移動時間のあ いだ、のちとたくさんおしゃべりできるかなあって思ったこと。

ガラス製や木製のオーナメント、キャンドル立てにアドヴェンドカレンダー、 見るものすべて可愛くてきらきらとしていた。どのお客さんも表情はとって も温かくて、私もたぶん頬が緩みぱなしなんだろうなあと思った。淡い色の リボンや木の実をモチーフにしたものが飾られているベルに目が留まった。 手にとって何度もリン、と鳴らしていると、「気に入ったんなら買ってあげ るよ」と、のちが言ってくれた。嬉しすぎてリン、リン、と何度もベルを鳴 らしてしまった。

展望台に上って星のカードにふたりで願い事を書いた。(のちに、さやちゃ んそれは感想文だよ、と笑われたくらい星を埋めました。)星を飾るツリー にはカップルがそれぞれ願い事を結んでいて、私たちもふたり同じ紐で結ん でみた。今日はカップルぽいことしてるねって、ふたりで笑った。

家に帰って、のちが買ってきてくれていたケーキにロウソクを立てて、火を 灯した。チキンとポテトチップスと、苺のケーキ。メリークリスマス、とい ってグラスを鳴らした。私が選んだジャケットはとっても気に入ってもらえ たみたいで、のちは可愛いカーディガンをプレゼントしてくれた。(少し前、 一緒に買い物行った時に可愛いとお店の前でずうっと眺めていたものでした)

*

おはよう、を言おうと少し寝返りをうつと、「さやちゃん枕元見てみい」と のちが笑ってた。枕元には小さな紙袋。開けてみると、可愛いセーターみた いな袋に包まれた女の子用の湯たんぽが入ってた。「冷え性のさやちゃんに サンタさんプレゼントくれたんやなあ」とのちがくすくすと笑っていて、何 だか自然と涙が溢れてしまった。ぎゅうって抱きついたあと、ありがとって 言った。素敵な素敵なクリスマス、になったよ。ありがとう。

12月24日(土) 晴れ  

 

ふたりでどこか特別な場所へお出かけするときっていつも雨の予報だね、と いうと、ほんとだなあ、とくすくす笑いながらのちは買ったばかりのビニル 傘をパンと開いていた。「最初のデートのとき、傘はひとつでいいんだよっ てさやちゃん言うてくれたんだよね」なんてのちが嬉しそうに笑っていた。

どうせ薄着して来るんだろうなあと思ってたらその通りだった、と言いなが らのちは羽織っていたジャンパーを私にかけてくれたあと、マフラーをぐる ぐると巻いてくれた。左手には、のちの片方の手袋。右手には、のちの大き な左手。「すっかり'のっちゃんファッション'だね」というのちはやっぱり笑 顔で、顔が熱ったのと温かいのとで、吐いた息がふわあとさっきよりも白く 白くなった。

きらきらと夜空に映える光は、夏の花火大会を思い出させた。ベルを鳴らす ための列に並んでいたとき、ホットカフェオレが思ったよりも苦くて飲めず にいたのだけど、そんな私をくすくすと笑いながらのちは走って砂糖を取っ てきてくれた。並んでいた列はすっかり進んでしまったけれど、何だか嬉し くて温かくて、列のいちばん後ろで口元が緩んで仕方がなかった。

とびきりの優しさで、温かさと融けてしまいそうな甘さを届けてくれるひと。 どんなに人が溢れていても、右手の温かさだけで大丈夫だって心から思うこ とができる。帰りの電車の中、イヤホンを片方ずつ耳に当てて大好きな曲を リピートでかけてみる。またこの曲?って言われちゃうかな、と思ってのち を見ると、目を閉じてすやすやと心地良さそうにしていた。

ジャンパー、手袋、のちの手のひら。のちの持っているものは、何だか全部 とっても温かいね。目を閉じて、もう一度大好きな曲に耳を傾けてみた。心 地良くて、温かくて。このまま眠ってしまいそうになるのに耐えるために、 瞼をこすった。

12月21日(水) 曇りときどき雨

 

思い出のホットコーヒーは少しほろ苦くて、パッケージデザインが去年とは 少し違っていることに気が付いた。前のはどんなだっけ、と思い浮かべては みたけれど曖昧なまま。4限の教室に向かっていると、マフラーをぐるぐる と巻いたのちが原付置き場のほうから歩いてきてた。のっちゃんだ、と言う と「そんな嬉しそうな顔してどした?」と笑われてしまった。

指先はすっかり赤く悴んでいて、いつもよりもノートを取る文字が歪んで思 わず笑ってしまった。この前ふたりでそこのスパゲティ屋の前歩いてるとこ 見たよ、手ぇ繋いで!と門ちゃんに言われて、思わず頬を覆った。悴んだ指 先がほどけるように少し熱をもった。のちも誰かにこんなふうに言われたり しているのかな、そのとき少しでも頬を染めたり、するのかなあ。

のちが買ってきてくれたピザまんを頬張りながら、足をうんと伸ばしてバイ トの疲れを取っていたときのこと。何だこれ、とのち。それは私がクリスマ スプレゼントに添えるフェルトで作るのち君人形の型紙につかったものだっ た。慌ててそれをテーブルクロスの下に隠して涙目になる私に驚きながら、 のちは「何も見てない見てない!のっちゃん何も見てないから!」と大笑い していた。

テーブルクロスの下に隠れているノチと同じ笑顔をしたのちが、頭を撫でて くれた。どさくさに紛れてぎゅう、と抱きついた。のちとこうして傍にいる ようになって、八ヶ月。けんかは数え切れないほどしたし何度も離れようと 思ったけど、たぶんこれから先もずっと、こんなにとびきりの力でぎゅう って私を優しく包んでくれるのはのちだけだなって思う。のちだけだ、ね。

明日は久しぶりにバイトの休みが取れたので、前から楽しみにしていたルミ ナリエへのちと行ってきます。なかなか休みが取れない分だけ、こうしてお 出かけできる日が本当に特別になる。デジカメの充電をして、明日に備えて 今日はいつもよりも早く寝ることにしよう。

12月20日(火) 晴れ

 

「玄関開けた瞬間にいい匂いがしたから、最高って思った。惚れ直した!」 なんて私のバイト帰りを待ってくれていたのちが抱きしめてくれた。ことこ とこと。下準備をしていた鍋にクリームシチューの素をそうっと入れて、と ろりとかき混ぜた。ふたりで一口ずつ味見をして、冬だねって、やっぱりシ チューだねって笑った。

喜んでくれると嬉しくて、おいしいって目を細くして笑ってくれるだけで、 作ってよかったなあって。いつだったか「会いに来たときの嬉しそうなさや ちゃんの表情が好き」と言ってくれたけど、お皿をぴかぴかにしてごちそう さまって笑ってくれるのちの表情が私は好きだなあ。

冷えた指先をぎゅうと包んでくれて、足の指先もつべたいや、なんて言いな がら毛布で包んでくれた。のちの胸に頬を埋めて、「こうやってぎゅうって するとき、いつもぴったりだなあって思う。体がぴったり収まるね。」とい うと、「いつも同じこと思ってたよ」と、のちが言ってくれた。嬉しくて、 ぎゅうとしていた腕に力を込めた。

きちんと指先が隠れるように毛布をかけてくれたり、かちかちっと寝る前に 電気を消してくれたり。お父さんみたいだ、と言うと、ほんとにこのお姫様 は、と笑われてしまった。毎日会っているのに、また会いたくなる。おやす みを言ったあとに少しだけ起きているほんの一瞬でさえも何かお話していた くて、いつも本当のおやすみなさい、が言えずにいるよ。

12月12日(月) 晴れ

 

真っ赤に染まった木々よりも、まだほんの少し紅葉し忘れている、そんなの んびりした木々が好き。春に甘い匂いで包まれていた歩道は、さわさわと赤 く揺れてた。由佳ちゃんカップルに「なんで車あるのに歩いてるん?」と訊 かれたので、歩いたほうがたくさんお話できるけんね、と笑った。頬にあた る風はひんやりと冷たいけれど、のちの左手はやっぱり温かい。

レストランとか予約するものなのかなあ、とすっかり頭をかかえているのち が何だか可愛くてしょうがなかった。すっかり周りの友達に影響されたみた いで、かっこいいクリスマスの演出を考えているみたい。形に拘らなくて全 然いいのに、なあ。おしゃれなデートにもあこがれるけど、ふたりでテレビ でも見ながらおなかいっぱいケーキ食べられたら、たぶんそれが一番しあわ せだよ。

ポプリみたいな歩道を歩いたり、小さなふたりだけの映画館で毛布に包まっ て画面に見入ったり、友達が働いている焼肉屋さんで割引券のスタンプを内 緒で押してもらって喜んだり、そんなひとつひとつの瞬間を一緒に過ごせる ことが嬉しくて、しあわせだなあって頬が緩んでしまう。

焼肉屋さん、といえば。母が電話で『このあいだミクの服を買いに行ったお 店で池田さんですか?って訊かれたのよ。どうやらその子焼肉屋さんで以前 働いていたみたいで、さやちゃんが家族でよく来ていたのを見てたって。心 当たりある?』と言っていた。中学で一度だけ同じクラスになった女の子で、 焼肉屋さんで二度会って手を振ったきりだった。母のことを、私のことを覚 えていてくれたんだあって、何だか嬉しかった。

心が動くこと。嬉しいなあって、温かいなあって。私も誰かの心をくすぐる ことができるような、温かさを届けてあげられるひとになりたい。今日から 新しい手帳。また、日々の温かさを綴っていきたいなあ。

12月1日(木) 晴れ

 

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