手のひらについたご飯粒を小さい子どもがするみたいに舐めた。上手く千切 れないよ、とくしゃくしゃになったラップを伸ばすのちにくすくす笑いなが ら蛇口をひねった。ふたりでお弁当作り。このあいだ姫路セントラルパーク へ行ったときに家族連れやカップルが芝生でお弁当を広げていたことに憧れ て、次にお出かけをするときはって約束したから。

こうやってさやちゃん歩かせてたら嬉しそうに木とか花とか見てるから平和 やなあって思うよ、と斜め右後ろでのちが笑っていた。手を上に伸ばしたら 暖かいよと両手を上げて見せたけど、右手を顔の高さまで上げたあとのちは 恥ずかしいからできないよ、と笑っていた。水色の空にピントを合わせた。 音だけを残して飛行機は少し離れて飛んでいた。

ひとつ、ふたつ。数えるほどしか花は開いていなかった。ペンキの剥げた古 いベンチに座って、ゆっくりと息をする。同い年くらいの女の子たちがキャッ チボールをしていた。同じ教室で自己紹介をした春から2年が経った。いつか らうちのこと気になってた?と訊ねたら、のちは高く上がるボールを眺めな がら、ないしょ、と笑ってた。

外でお弁当食べるなんて高校以来かなあ、とのちはおにぎりをふた口で食べ ていた。土の匂い、膨らんだ蕾の濃い色、甘いオレンジ。頬が緩んでしまう、 眩しくて目をうんと細めてしまう。空っぽのお弁当箱は軽くて、私の右手を すっと握ったのちの左手は温かかった。久しぶりに乗ったブランコは椅子に 乾いた土がついていて、掃うと手が白くなった。こんなに地面と近かったっ け、ってふたりで笑った。

すべりだいの上でさっき撮った写真を一枚いちまい見ながら、ウォークマン の音量を最大にして公園に大好きな曲を響かせた。歩道を歩く中川くんを見 つけて、のちが大声で呼んでいた。すべりだいの下まで来た中川くんは、こ んなとこで何してるん、と笑っていた。のちと目を合わせてくすくす笑いな がら、こういうのっていいなあと思った。

4月3日(日) 晴れ

 

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