苺の大きなキーホルダーを揺らせて、笑う。心が満たされていると、頬を緩 めるたびに何かが解けるのがわかる。疲れていた体を解くためにうんと伸び をするように、心を解くこと。この苺の大きなキーホルダーは、旅先でいた だいたもの。揺らすと、甘い香りがふわっとはじけて、とても可愛い。

いつか大好きだったひとに、大好きだったことを伝えた。少し時は経てしま ったけれど、すっかりと遅くなってしまったけれど。選んでいた甘いホイッ プクリーム、あのときの君も苺のアイスクリームを選んでいた。背格好に似 合わないその可愛い一面が、あのときの私には愛しくてしょうがなかったん だっけ。

背中ばかり見ていた淡い恋が叶うことはなかったけれど、でも、その分少し ばかり大人になった私が、きちんと気持ちを伝えるから。真っ直ぐだった気 持ち、伝えてあげたいって、心から思えた。文面はそのまま、少しばかり過 去形にして、だけれど。色褪せない気持ちを、まっすぐに。

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のちの傍にいて、だけれども素直になれない想いもあふれるばかり。京都の お土産だと買ってきた耳掻きを見せたら、大笑いしていた。のちの膝に頬を 寄せて、気持ちをあずけるのがとても好き。けんかをしたときでも、「耳掻 きしたげよか」ってひとことが、仲直りの合図。小さな耳掻きが、これから も見守ってくれていたらいいな。

大好きだった“階段の人”に、のちとのことを話したよ。時を経て気持ちを 伝えられるのはとても幸せだけれど、でも、今の気持ちが過去形になってし まう前に伝えていこうと思った。のちにはいつも、今の気持ちを、伝えられ るひとでいたい。だからまた、くしゃっとした笑顔で、笑って聞いていてね。

8月28日(火) 曇り

 

白い線は一度書き直されていたよう、少し色が剥げていた。小さな駐車場に 香川ナンバーの愛車を駐めて、真っ直ぐに伸びる大きな歩道を歩く。原田さ んはこの道のために小さな日傘を持ち歩いていると昨日の夜に笑っていた。 それを思い出して、フェンスでできた小さな影を選んで歩いた。わたしの、 新しい習慣。珈琲の香りに包まれるまでの、長い坂道。

小さな淡い初恋を、いつも見守ってくれていた場所だから。もう何年も前の ことだけれど、窓側のソファ席を見るたびにふと想い出す時間。いま座って いるふたりにとっても、そんなふうにいつか想い出す大切なひとときなのか なと思ったら、そうっと見守りたくなる。いつも誰かにとって、大切な場所 でありますように。

おいしい珈琲。香りと、舌に触れる瞬間と、とろんとした余韻と。向かいの 席には大切なひとの笑顔、だなんて素敵だなあ。のちは時間の持つ独特の余 韻が苦手のようで、すぐに席を立ってしまう。ひとつとびきりのわがままを 叶えてくれるならば、週に一度はここで、ゆっくりと時間の余韻を愉しみた いのだけれど、なあ。

電話の向こう、拗ねた私の声に笑いながら「花火、今年は行けなかったから、 いっしょに手持ちの花火しよかあ」と。相変わらず拗ねたまま嬉しくないふ りをしたけれど、こうして久しぶりに綴りたくなったほど、とても嬉しかっ たよ。文庫本を片手に珈琲を愉しむだなんてきっと君はしばらくしそうにな いけれど、君はとても、夏が似合うひとだ。

8月5日(日) 晴れ

 

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