長い陽に目を細め、日に日に高くなりゆく空に思いを浮かべる。私は君をよ く、猫だと喩えた。余韻の残るやわらかい声がとても、いつかの子猫に似て いた。目を細めて笑うときにできる皺も、すっと、時折静かに耽る瞬も。声 を聴きたい、わがままだけれど。

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いつもはシンプルな白い食器ばかり使っているけれど、こうしてヨーグルト を食べるときは透明の、ガラスの器を。ジャムの色にあわせて表情をとろと ろと変えるそれを見るのが、幼い頃からとても好きだった。開けたばかりの ヨーグルトにそうっとスプーンを入れるときが好き。新しいジャムに、そう っとスプーンを入れるときが、好き。

甘く、甘く。心からおいしいと思ったとき、心が穏やかな証拠なのだと。心 をすうっと梳かしてくれるのは、いつだって、誰かのことばだ。ひやりと、 両手に水が伝っていく。いつだったか、“あったかいは、冬の言葉だよ”と 教えてもらったことがある。夏のはじまる言葉は、あなたは、空になんて笑 うのかな。

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ベランダの向こう、ぽつぽつと橙の灯り。それらが重なると、シンプルなパ ズルみたいで、指で弾けば動き出しそうで。以前住んでいたアパートのベラ ンダからは、絶え間なく水の流れるおとがしていた。窓を少し開けて、ここ にはない、水のおとを探るよにして眠ると、すうっと眠れるように思う。

思い出すは須磨の海岸、見上げた星空。あの夜、みんなで感じた風が、響い た笑い声が、いまでも支えとなっています。とても心地の良い、子守唄みた いな優しい笑い声たち。巡る季節に宿る思い出、それらは緩くも長く続いて ゆくもので。耽るとき、あなたはいつも笑顔だ。

6月16日(月) 晴れ

 

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