朝起きて、制服に着替えて、朝食も食べて、行ってきますも言ったのに帰っ てきた。気分が悪かった。ベッドの横にうずくまる。妹は学校だし、親ふたり は仕事に行ってしまった。時計を見た。授業が始まる時間だった。学校に電 話すると事務の女の人が出て、名前を言って欠席することを伝えた。高校入 って初めての欠席。今日は絶対学校に行きたかった。休み明けだし、明日か らまた秋休みに入っちゃう。ユニ君に会いたかった。

ベッドの上でぐたーっとしてたら、携帯が鳴った。うめさんやアネゴからメー ルが着た。何だかすごく嬉しかった。誰もいない家よりも、絶対絶対学校の がいいと思った。こんな風になるんだったら、無理してもいいから学校まで行 ってどうせ倒れるんなら保健室がよかった。やっぱり私はひとりになるのが 苦手なんだなぁと思った。小学生のとき、風邪で休んだときは横にお母さん がいて、おじや作ってくれて、テレビの見えるところまで布団を持って行って 普段は見れない教育テレビ、朝からずっと見てたなぁなんて思った。

気がついたらお昼を過ぎていて、食欲はあまりなかったけれどご飯を少し食 べた。それからまた横になろうと思ったけれど、動いてるほうが楽になる気が した。掃除機をかけて、引き出しを整理して思い出に耽りながら片付けた。中 学の生徒会役員選挙の演説の下書きや、運動会のパンフレット。処分しよう と考えてたカセットテープの山を見て、最近は本当にカセットテープにお世話 になってないなぁと思った。箱の奥には、私が小5くらいのときに担任の先生 から借りたテープをまるまるダビングしたテープがあった。確かそのころ『星 の金貨』のドラマが好きで(酒井法子のころ)主題化の蒼いうさぎのテープが 欲しかったんだ。ふと、ラベルの下のほうを見るとMy Little Loverの曲 が3つも入ってた。びっくりした。そのころはマイラバのことあまり知らなくて 蒼いうさぎが聞きたくて、いつも早送りしてた。そのあと、私は違うルーツでマ イラバと出会って、大好きになった。先生もそのころは20代前半で、きっとき っと今の私と趣味がぴったりだと思う。ほんの少しだけすごいなぁって思っ て、先生に久しぶりに手紙を書いてみようかなぁなんて思った。結局、処分し ようと思っていたのだけれどそのまま元の箱にしまっておくことにした。

そのあとやっぱり少しだけ体がだるくて、夜まで寝ていたのだけれど、その間 ずっといろんなカセットテープを聞いていた。MDと違って、好きな曲はすぐ に選択できないし、伸びて音が変になっていたけれど、たまにはこういうのも いいなぁと思ってみた。また、忘れたころにこうして聞きたいなぁ。

夜になってたくさんの友達からメールが着たのに、やっぱりやっぱりユニ君 からメールは来なかった。私が休んでいることも気付かれてなかったらどうし よう!今日、一瞬でも"あれ?"って思ってくれましたように。(文が何だかお かしい)学校のみんな、心配してくれてありがとう。たぶんもう元気だよ!

9月30日(月) 曇り ときどき 晴れ

"試しにつきあってみない?"

会ったこともないのに、名前しか知らないのに。その名前さえも嘘かもしれな いのに。少しメールをしただけの人。もしかしたら、ユニ君よりもとってもとっ ても素敵な人かもしれない。付き合ってから知っていくのもいいかもしれな い。だけど、幸せが待ってるかもしれない恋よりも、結果が分かってるけれど ユニ君にする恋のほうがいい。ユニ君じゃないと、嫌だよ。

昨日と同じくらいの時間に、昨日と同じ本屋さんへ行った。いるはずないなん て最初から分かってたはずなのに、ちゃんとそう思ってるのに、心のどこか で"もしかしたら"って思ってる。レジで並んでいると、小・中と同じだったさっ ちょんに会った。背が高くなってて、雰囲気が変わってた。目が合ったけれど 特に挨拶も交わさなかった。私の中でさっちょんは、給食大好きな男の子っ てイメージがあった。だけど、もう男の人って感じで、何だか不思議な気分だ った。私もあの頃から、少しは大人になれたかな。

明日は久しぶりの学校。そのあとは秋休みに入るから、しばらくユニ君と会え ない。だけど、前ほど会いたいって気持ちも強くないし、携帯をギューってす ることもなくなった。メールをしばらくしていないことも焦らなくなったし、この ままスッキリ忘れられることができるのなら、それがいいと思う。だけど、ホ ームステイのとき一緒に撮った写真や、打ち上げのとき一緒に撮ったプリク ラの私の照れてるけどすごく嬉しそうな顔や、ユニ君の笑顔を見たらギュー ってなる。やっぱり好きなんだって思う。きっとまた明日学校でユニ君の横顔 を見たら、好きで好きで大好きでどうしようもない気持ちが復活しちゃうんだ ろうなぁと思う。ユニ君と同じ空間にいられることって、すごいパワーを持って いるんだと思うよ。

9月29日(日) 曇り

読みかけの小説を朝からゴロゴロしながら読んだ。切なくて、ギューってなっ て何度も自分に重ねて読んだ。読み終わったあとは何だかスッキリした気分 でとても気持ちがよかった。少し遅いお昼ご飯を適当に冷蔵庫にあったもの で作って食べて、外へ出た。

ホストファミリーにまた手紙を書きたいのだけれど、いつも文にならないので 英文手紙の書き方、という本を買おうと思った。家の近くの結構大きな本屋さんの 手紙の書き方、のコーナーで立ち読みをしていた。すぐ横の楽譜のコーナー に何人か人が来てワヤワヤ言ってた。いつもだったらすぐに横を見てしまう のだけれど、欲しいと思った本の値段に驚いてそれどころじゃなかったので ずっと値段と睨めっこしてた。そのあと、横の人たちを見た。値段よりも、何 よりもびっくりした。驚いて目が大きくなるのって、こんな感じなんだなって思 ったくらい目を大きくした気がする。潤さんが隣にいた。周りには、サッカー 部の人たちがいた。えええ!とっさに回れ右した。だーって走って逃げた。ユ ニ君も来てるのかな。心臓がドキドキしてるのが、わかった。さりげなく雑誌 コーナーのところからサッカー部君たちを見た。ユニ君は、いなかった。高校 からかなり遠いところなのに、こんなところにサッカー部君たちは来るんだ。 前に隣のスポーツ用品店にいたって話は聞いたことある。家とかたぶん遠い はずなのにこっちの方、来るんだ。私の家の近く来るんだー!今度はユニ君 も来たらいいのになぁ。潤さん、ユニ君と仲良しさんなんだから一緒に来てよ ー!だけど、もし隣にいたのがユニ君だったらもっともっとびっくりして、腰抜 かしちゃってただろうなぁ。

結局私は何だかとってもドキドキして、英文手紙の書き方の本を買ってくるの を忘れてしまった。明日も同じ時間くらいに本屋さんへ行こうかなぁ。

9月28日(土) 曇り

保健の時間、テスト返しのときユニ君が私の横の人と斜め後ろ向いてお話す るから何だかこっちの方向向いてて見られてるわけなんてないのに緊張して しまった。ふたりの会話がとってもおもしろくて笑ってしまった。周りのみんな も笑ってたから、不自然じゃなかったし、大丈夫。そのあと席替えがあった。 番号が書いてあるところに名前を書いていく。私があの番号を選んだのには 理由があるよ。何かは秘密だけれど。ユニ君が選んだ番号は、私の出席番 号だったから、え?え?え?とかって勝手に考えたけれど、よく考えたら好き な子ちゃんの名字にちなんだ数字でもあったから、わぁーって思った。その 前にきっとユニ君は何にも考えてなさそうなのだけれど。

私は好きな子ちゃんの斜め後ろになった。ユニ君は前のほうで、何だかガッ カリしてた。それで、こっちの方向を見た。好きな子ちゃんを見た。ちょうど好 きな子ちゃんに重なってユニ君から私は見えなかったと思う。私、もうひとつ こっちにいるんだよ。少しくらい気にしてくれてもいいじゃんか。そんなにこっ ちの方向見ないでよ。私が、つらいじゃんか。こんなに強い視線受けてるん だなぁと思った。私がユニ君に送ってる視線くらい、強かった。

やっぱり簿記の時間はミカちゃんとお話たくさんした。ミカちゃんは春ごろ私 のこと名字で呼んでたのに今日ふと気がついたら『ごっち』になってて嬉しか った。今日は好きな人からもらったプレゼントはどうするか、ってお話になっ て昔の人の物でもなかなか捨てられないって結論になった。近くに前好きだ った人もいて少しヒヤヒヤしたのだけれど、もう大声でお話しちゃった。タンス の引出しにはその人からもらったぬいぐるみが今でも置いてあるんだもん。 ユニ君からもらったものなんて何もないけれど、一緒に撮った写真とプリクラ はきっとこれからも絶対捨てることなんてないだろうなぁって心から思う。簿 記の時間が終わって、ミカちゃんの好きな人が廊下に見えて教室に入ってき たから『ほら!ここでこけたらアピールになるよ!!』って言ったら『そんな変 な印象持たれたくないー笑』って照れてた。ミカちゃんカワイイ!

私 "夏前に告白して振られてるんだけど、また告るのってありかなぁ?" 久保くん "ありよ!あり!自分が納得行くまでがんばるべし!"

中学のときにもこうやって恋のお話はもちろん、いろんな小さな相談やお話を たくさんした久保くんに、また勇気をもらった。久保くんはイタズラっこで、だ けどとっても頭が良くて、子犬みたいに人懐こかった。久しぶりに連絡が取れ て最近は毎日メールしている。

"そう!やる気をだしなさい!" "おう!心より応援してます!まじで!" "おやすみ!いつでも相談にのるよ!"

本当に心がスーって軽くなった。久保くんのことばはストレートに心に入って くる。怒ってるときは怒ってて、つまらなそうなときはホントにつまらなそうな メールしてくるから、今は本当に応援してくれてるって思った。私がまだ納得 していないうちはがんばってみてもいいんだって思った。だけど、今はやっぱ りユニ君の恋を見守る方向でいようと思う。ユニ君の恋、実ってほしいとも思 っている私もいる。ユニ君にはイチバン幸せな笑顔でいてほしいもん。あの 笑顔見て、そう思った。もっともっと好きになっちゃったけどね。ふあー

9月27日(金) 曇りのち雨

席がユニ君の斜め前の現社の時間。その90分はほんとドキドキで、私にと ってはとても長く感じる。だけど、そんなドキドキも飛んでった。ドキドキが苦 しくなった。授業も終わりになったとき、プリントを集めることになってユニ君 の席の近くに好きな子ちゃんが来た。そのあと、私の隣の席のにっしゃまん にすっごい嬉しそうな笑顔するんだもん。もう、逃げたかった。嫌だった。

体育の選択も、ユニ君は好きな子ちゃんと一緒のを選んでた。休み時間、好 きな子ちゃんの近くの友達とずっと話しながら、見てた。帰りのショートのあ と、先生に話しかけてた。そこには好きな子ちゃんがいた。ベランダで、潤さ んと何か相談してた。長尾君はしょっちゅうユニ君と恋バナするって言って た。きっと恋の相談かなって思った。ユニ君が、ユニ君なりにがんばってると 思う。近くにいれたことがとっても嬉しいこと、伝わってくる。その気持ち分か るもん。私だってホームステイのときとか、すごく嬉しかったもん。だからユ ニ君にはがんばってほしいと思う。ユニ君のこと、ほんとにほんとに好きだか ら、応援するし、諦められない。

簿記の時間、ミカちゃんとずっとお話してた。好きな人の教え合いっこした。 いっぱい共感してくれて、いっぱい共感した。この冬こそがんばりたいわって 笑った。授業が終わったあと、廊下をユニ君が通って通りすぎたあとにミカち ゃんが『おったねー笑』って言った。笑った。『応援する言うても、そんなん絶 対できひんよね!めっちゃ分かるー!』って言ってくれた。がんばりたいのに がんばれなくて、がんばってほしいのに、ほんとはがんばってほしくない。

帰りもあゆみちゃんとジャスミンとずっとお話した。みんなみんな悩んでて、 だけど楽しそうだった。私も苦しいことばかりだけど、ユニ君のことは諦めた くない。ただ、見ることしかできないけど、思い続けることしかできないけど最 後まで諦めない。がんばろうと思った。

9月26日(木) 曇り

先週から続いた期末テストがやっとやっと終わった。終わった瞬間に教室が わぁーってなって、みんな口々に『やっと終わったー!』って開放感を味わっ ていた。最後の科目は英語表現でユニ君と同じだったから、最後の瞬間を一 緒の空間にいることができてとても嬉しい。ユニ君はとっても笑顔で、きっと 部活できるー!遊べるー!って思っているんだろうなぁと思った。私も勉強し ていなかった割に開放感は人一倍あって、ずっと有ちゃんやしおりちゃんと 終わったーって叫んでた。ほんっと長かったと思う。

放課後、本当は帰ろうと思っていたんだけどあゆみちゃんと食堂で少しだけ お昼を食べることにした。絶対いるって思っていたんだけれど、食堂にはサッ カー部の人たちがいつもの場所にいて、おまけにあゆみちゃんの好きだった 人とユニ君は隣合わせに座っていて、ふたりで大笑いした。ユニ君のほうは 恥ずかしくて見れなくて、『なんか落ちついて食べれないよね』ってあゆみち ゃんとずっと言ってた。

そのあと途中でプリクラ撮ったり雑誌立ち読みしたりしてのんびり家に帰っ た。最近本当に部屋をリフォームするのが好きで、今日は壁にイギリスでた くさんもらってきたデパートのカラフルなチラシを貼ることにした。それをしな がらタンスの引出しに閉まってあった中学のときの交換日記とか手紙とか、 ワールドカップのペコちゃん人形を何度も見ては懐かしくなって思い出に耽っ てた。夕方過ぎになって、お母さんが叫んだ。

『チーちゃんが動かへんの!』 リビングに行くとお母さんがチーちゃんを手で暖めてた。ここ1週間くらい餌 をあまり食べてなかったのは知っていたけど、特に気にしていなかった。秋に なったから寒くなって食欲なくなったのかな、くらいにしか思ってなかった。 チーちゃんは足を引きずって、手を離すと反り返って羽を痛々しそうにバタバタ させた。呼吸が荒かった。久しぶりに抱くチーちゃんはとても軽くて大人しく て、とても小さく、そして冷たかった。

私が小学1年生のときまで飼っていたセキセイインコは目が真っ赤で、そし て体はキレイな黄色をしていた。そのインコがまだ赤ちゃんで、初めて私の 前で鳴いたのが『チィカラ』ということばだった。その響きがとても可愛くて 赤ちゃんの入っていたピンク色の籠に『ちぃからのおうち』とサインペンで書いた のを今でも覚えている。チーちゃん、チーちゃん、と呼んでいた。次第にちぃ からはことばを覚えるようになった。『サヤカチャン』と何度も繰り返すように なった。私はちぃからが大好きで、ちぃからも私に懐いてくれていた。だけ ど、小学校1年の秋、確か土曜日だった。学校から帰ってきたらちぃからは ベランダで動かなくなっていた。きっと、寒さに耐えられなかったんだ。私は その日ずっとずっと泣いた。死、というものをあまり分かっていなかったけれ ど、動かないちぃからを見て、もう遊べないんだって分かった。涙が止まらな った。だけどその次の月、妹が生まれた。いつのまにか、寂しさも消えてた。

その妹が小学2年になった夏前、私が中学3年のときにペットショップでたま たま見つけたセキセイインコの赤ちゃんの中に、黄色い体で赤い目をしたち ぃからそっくりのインコを見つけた。ちぃからの生まれ変わりだと思った。す ぐに飼うことになった。名前は迷ったけれど、やっぱりちぃからにすることに した。中でも妹は特にちぃからを可愛がった。チーちゃん、チーちゃん、毎日 話しかけてた。私はその年の夏休みの宿題でちぃからの視点になって夏休 みを過ごすという物語を書いた。人差し指に乗せて勢いよく動かしてやると 小さな羽をバタバタさせた。飛べるようになった瞬間も家族みんなで見た。前に 飼っていたちぃからみたくしゃべるのは上手ではなかったけれど、技を覚え た。お母さんが指を上下させながら『上手上手ー!!』って言うと止まり木を逆 上がりみたく一周して誉めてもらいたくて柵の手前まで来た。それがとっても 可愛かった。だけどこのちぃからはとても元気がよかったので、羽をバタバタ させるクセがあった。それまでみんなと仲良くできるようにってリビングに置 いていたけれど、羽の飛び散りがすごかったのでベランダの前のテーブルの下 に置かれることになった。それから私はあまりちぃからに構うことができて いなかったと思う。ちぃからはだんだんイライラするようになっていって、だけ ど私はそれを特に気にしていなかった。

ぶくぶく太ってたちぃからが、あんなに元気過ぎたちぃからが、元気がない。 私が見たときはひどく痙攣をおこしていた。羽を広げて、体全体で息してた。 私が変わってあげたかった。心からそう思った。こんな小さな体で、戦って る。耳を近づけないと聞こえないくらいの小さな声で、ピィ、ピィ、と繰り返し てた。私は必死にネットで動物病院を探した。だけど鳥を扱っているところは 少なく、私の住んでいるところからは遠いところばかりだった。たくさんの人 に電話して、何とかして助ける方法を知りたかった。だけど、ちぃからはお母 さんの手の中で眠った。小さく、とっても小さくなって、冷たくて、羽を閉じて いつものちぃからじゃ想像できないくらい大人しくなって、眠った。涙が止まら なかった。赤い目はもう見えなくて、キレイな、世界でイチバンキレイな黄色 の体を残して、ちぃからは眠ったんだ。

私よりしっかりしてて、どこか冷めてて、泣いているところをほとんど見せな い妹が大泣きしてた。チーちゃん、チーちゃんって何度も動かない体に呼び かけてた。呼びつづけてた。あれから私も妹も、ちぃからも少しだけ大きくな った。ちぃからは私たちにたくさんの思い出をくれたよ。素敵な素敵な思い 出。小さいくせに、存在感たっぷりで、元気だけが取り柄で。天国でもその元 気で飛びまわってよね。そのあとみんなでちぃからを埋めにいった。落ちつ かない場所かもしれないけれど、そんなときは自由に逃げていいよ。自由に なれたね。大きくて、世界でイチバンキレイな黄色をしたその翼で自由に飛 びまわって、そして黄色く輝く星になれ。ありがとうチーちゃん。だいすき。

9月25日(水) 晴れ

9月10日〜9月24日分のログ

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